不動産教室4 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

あれから不動産屋の先生とは1週間くらい会ってない。



こんな僕がマンションを買うって話はポンポン進んで行って実際に物件も先生と見てきたわけです。



先生の愛車の高級車に乗ってね。



普段は会社のワゴン車でお客さんを連れて行くらしいけど、出払っちゃってて自分の車で来たんだとか。



「僕の趣味がバレちゃいますね」って先生は言うんだけどさ。



僕は車に興味がないのよ。



田舎に住んでたら1人1台が当たり前で通勤に使うから必要にはなるんだけど、別に今は必要ではないのよ。



だから先生の高そうな車について誉めるポイントもよくわからないわけでね。



後部座席のドアを先生自ら開けてくれるわけ。



そういう配慮もしてくれるんだなって思って車内に乗り込んだわけだけど、なんか不自然に汚いわけ。



生活感のない散らかり方をしてるのよ。



僕もね、先生が部屋に来るときは早起きして部屋の掃除をしましたよ。



僕は潔癖症ではないけど、やるからには最低限の掃除をするわけですよ。



それには先生も部屋にあがって「一人暮らしなのに綺麗ですね」って誉めてくれたわけ。



だから先生に「いや、そうでもないですよ」ってタンスを指差したわけでね。



タンスの上には洗濯物が山積みになってますから。



一番上の引き出しを全開に出して山積みの土台となる面積を増やしてるわけですよ。



そこまでは無理よ、そこまで部屋を綺麗にするのはしんどいよ。



そしたら先生も「いや、男らしくていいと思いますよ」って、さすが営業マン誉める引き出しは豊富だな。



で、先生の車に乗ったら助手席の下にCDが落ちてるわけ。



こんなことありえなくないすか?



後部座席に座るお客さんの目線で片付けが出来てないってのが1つと、CDだから音楽ってわけじゃないからね、個人情報だとかのデータ管理がずさんなイメージにも繋がるでしょ。



これ明らかに先生が置いたとしか考えられないわけよ。



わざと汚しを入れた感じの散らかり方なのよ。



普段自分が使ってる車にお客さんを乗せるときに慌てて片付けるのなら真っ先に目につくものだと思うのよ。



これを見落とす方が難しいわけさ。



しかも待ち合わせの時間の前に先生は車を僕のアパート前に停めて待ってたのよ。



僕はその日も慌てて部屋の掃除をしてて、部屋の空気を入れ替えようと窓を開けたら、そのすぐ目の前に先生の車が止まってたもんだから速攻で窓を閉めたからね。



先生はゆっくりとカップコーヒーを飲んでたの。



すぐ待ち合わせの時間になって先生が部屋のチャイムを鳴らしに来たけど、僕はまだ洗濯物を干してないからちょっと待ってもらったのよ。



ようするに先生が後部座席を片付ける時間はあったわけさ。



なのに車内が不自然に散らかっている不思議ね。



なんのおまじないの効果があるのかわからないけど、営業マンとして得することはないと思う。



高級車と所有者の品格が同じではないっていうのとも何か違うわけよ。



同じ男としての違和感なのよ。



先生が計算外だとは思えないからね。



僕の山積みの洗濯物は全てを畳んでタンスにしまう時間の計算がどうにも間に合わなくて諦めたのと、普段からそれをやるのが面倒臭いからでね。



先生は車内という限られたスペースで、それらを片付ける時間もあったわけ。



もしかしたら、エロDVDの可能性もあるから僕もそのことには黙ってるわけだよ。



ただね、僕としては後部座席のドアを開けてくれた気遣いとの違和感だよね。



そんで物件を見に行くことになりまして。



割りとアパートからは近い場所でね。



3LDKの中古のマンションですけどね。



それが2,380万円だってさ。



中古って言うのをね、先生は“リノベーション”っていう英語でカッコよく言ってくるんだけどさ、高卒の僕には“ほぼ下ネタ”にしか聞こえないわけで…



キッチンもオール電化になってて、食洗機も付いてると。



そう言われても、肝心の美味しい料理が作れるわけではないわけで…



一応、和室もありますと。



へえ…



畳の上にフローリングの板を敷けば洋室にもなりますと。



へえ…



押し入れの収納スペースもこれだけありますと。



へえ…



ベランダからの眺めもいいですよと。



先生からそう言われたので、ベランダに出て遠くの景色を眺めながら僕は思った…



(あれ?なんで…オレ、ここに住まなきゃいけないんだっけ?)



1Kのアパートに住んでる人間が、一人暮らしでこんな部屋の数は必要ない。



マンションの目の前には小さな汚い川がチョロチョロと流れている。



先生が言うには、それを英語だと“リバーサイド”って呼ぶらしい。



リバーサイドが好まれる理由としては、そこに建物は絶対に立つことはないので陽当たり良好で開放的だからだそうです。



他には浴室も見たけど広さは今のアパートと同じだった。



先生は洗面所に設置してあった三面鏡を開いて
「これなんか白髪染めをするには便利ですよ!」
と言った。



(いや、そんなんで2,000万のマンションを買う決め手になるんか!?)と。



3LDKだと部屋は余るし、ルームシェアして2人ほど住まわせないと広過ぎて夜に1人になったときが怖い。



マンションには管理人とは別に住人を代表した理事長みたいな役もあるそうだ。



これは全く興味のない話だった。



誰かしら自分からやりたがる人っていますから、と。



仮に誰もやりたがらなかったとしても、部屋数は140戸ありますから、当たる確率は140分の1ですと。



140年に1回の確率ですから、生きてるうちになることはまずないです、と。



いや、当たりと外れなら2分の1じゃないの?



マンションの部屋が7階なのもラッキー7だと先生は言った。



エレベーターも2基あるから待つこともないと。


エレベーターから降りてマンションの駐車場を歩いていると自動販売機が置いてあった。



「これで飲み物が買えるっていうのも以外と便利っすよ」と。



自販機の有無で2,000万のマンションを買う決め手にはならんだろ。



そんで、先生の車のナンバーもラッキー7だった。



手元にないお金でマンションを買ってそこに住むという感覚がまだよくわからない。



それが安心なのか、賢いことなのか、楽しい日々の始まりなのか、幸せなことなのか、それもまだわからない。



マンションの住人に対して先生は「ローンを組めるということは、それなりにちゃんと働いている人しか住んでないってことですよ」と。



そういう考え方もあるんだなぁと、先生の運転する車の後部座席に座りながら自分の残された人生の時間を数字で表すとしたら、僕の人生はこのマンションくらいなんだと先生から言われてるような気がした。



続く