職場にいるキング・オブ・クズことOさんに初めて窮地を助けられたのだった。
ちなみにOさんとはどんな人物かと説明するのならば、とにかく仕事を休む人なのだ。
その休む理由もバリエーションが豊富で、まるで病気のAmazonかと驚くような品揃えと、即翌日発病という嘘みたいな爆裂虚弱体質の能力を持つ男なのである。
一言でいうと、クズなのだ。
これまでにOさんが仕事を休んだ理由を紹介しよう。
まずは病気。
膝が痛い。
吐き気と下痢が止まらない。
急性胃腸炎。
インフルエンザ。
ぎっくり腰。
便秘。
目が痛い。
これらの病をローテーション制を守って使い分ける病気の鉄人でもある。
1ヶ月まともに出勤できたことはまだない。
それから身内ネタ…、いや、これはネタではない。
本人としては、やむなく仕事を休むことになったのである。
身内の都合で休む理由がこちら。
父親が救急車で運ばれた。
父親が病院に行くからその付き添い。
父親の病院に付き添っている母親がもし倒れたらそれこそ大変だから、その付き添い。
何が問題かというと基本的に連休をするのである。
そうなると後半戦で多少の無理が生じてくる。
仕事を休む理由としてのスタミナが明らかに切れてくるのである。
そうなるとタイムを要求してくるのだ。
作戦を夜中に電話で伝えてくることもある。
さすがに社長からも八百長を疑われていると。
父親が倒れたことを信じてもらえないと。
いや、そもそも父親が倒れたことを社長から疑われているという相談なのだが、これは一体なんの相談をしているのだろうか?
これはお互いにボタンの掛け違いなどではなく、あなた最初からチャック全開でやってきたからではないか?
父親が倒れたことを社長に信じてもらうにはどうしたらいいのだろうかと。
こちらの考えを待つよりも速く、彼は1つのアイディアを提案してきたのだった。
仮病IQ200の頭脳で導き出された答えを語った。
「母ちゃんから社長に電話して説明してもらうしかない」
母ちゃんとは別れた嫁さんのことではなく、自分の母親のことである。
ちなみに彼は48才。
その母親となれば完全にお婆ちゃんの年齢である。
あまりに大胆な大作戦ぶりにこちらもわけがわからなくなった。
逆オレオレ詐欺みたいなことだろうか?
こんな劇場型の仮病なんて聞いたことがない。
誰が得をするのだろうか?
いや、仮病ではないのだ。
父親が倒れたのになぜか信じてもらえない可哀想な人なのだ。
彼は信頼や信用というような地球サイズのスケールで生きる現代人に警笛を鳴らしているのだ。
彼は、ただただ純粋に明日も仕事を休みたいのだ。
社長が信じようが信じまいが、それは関係ないのである。
父親が倒れようが、医学では解明できない奇跡的な若返りをしようが、玄関から職場までの道に一万円札が置いてあろうが、明日は間違いなく休むのだ。
お婆ちゃんからの突然の電話に社長は引くのだ。
病気と身内の理由で休むだけではキング・オブ・クズの称号は得られない。
彼は前に働いていた会社をクビになっている。
なぜ彼は会社をクビになったのだろうか、その理由は謎だ。
ただ、これだけは言えるのは僕が前の会社の社長と直接会って話をしたら確実に爆笑を取る自信はある。
別れた嫁さんとは朝までクズあるあるで盛り上がるだろう。
キング・オブ・クズを受賞した作品がこちら。
【クビになった前の会社に給料補償の件で話をしに行くから】
従業員を会社の都合で解雇する場合には、1ヶ月分の給料を補償しなければならないのだが、そこまでの損失を出してまでも解雇したい人材ということにもなる。
解雇したいその理由は、謎だ。
クビになった理由は謎なのだが、それを理由に休むのだ。
仮にクズだから前の会社をクビになったとしよう。
クズだからクビになったわけだが、今度はそれが理由となってまたクズなことをするという、この見事なクズの連鎖。
パズルゲーム・クズクズである。
ポケモンのように病気が進化することも多々ある。
彼はクズモンなのである。
1度休んだ理由をほとぼりがさめた頃に再び引っ張るという、モンストのようなこともできる。
【前の会社と金のことでまだ揉めてるから】
これはクズスターストライクという必殺技である。
これら全てに共通することとは何かとクズ研究を重ねた結果、わかったことがある。
彼は我慢をしない。
痛くなったら早退する。
休みたいときは休む。
シンプルにクズなのだ。
遅刻だけは1度もしたことがない。
もちろん誰もそのことを誉めたりはしないが。
常に体のどこかしらの具合が悪いのだ。
そして遂に、キング・オブ・クズは仕事を休む理由の向こう側へと辿り着いたのである。
クズの向こう側から掛かってきた電話内容がこちら…。
【うまいこと言っといて下さい】
はぁぁあああっ!?
…ネタ切れを理由にして休むのである。
そんな悟りクズのOさんから助けられたのである。
僕は近頃は歯が時々痛むのだけど、なぜか今日はそれが頭痛になって朝からしんどかったのだ。
結果としては昼頃の天候が雷を伴った夕立があったので気圧の変化による頭痛だと、そう思いたい。
とにかく頭が痛くて午前中の休憩中も無言でこめかみやおでこを揉んで痛みを我慢していた。
すると、そんな僕を見たOさんが「ロキソニンあるからやろうか?」と、心配してくれたのだった。
Oさんは我慢をしない人だから痛み止めの薬を持ち歩いているのだろう。
そんなOさんも昨日の夜からずっと吐き気と腹痛が止まらないと言っていた。
それが明日休む為の布石なのか?と考えることすら面倒なくらい僕は頭痛に襲われていた。
仕事中にこんな頭痛は初めてなのと、休憩後からは頭を使う仕事だったのでこのままでは集中できないのでロキソニンを貰うことにした。
Oさんはポケットの小銭入れから2錠だけ繋がったロキソニンを出して僕にくれた。
そして僕にこう説明した。
「飲むのは1錠だからね。残りの1個はちゃんと返してよ。俺も飲むんだから!」
「俺だってさぁ、昨日のっ、夜からっ、ずっとっ、吐き気とっ、腹痛がっ、ずっとっ、もう、止まらないんだからぁ~…明日」
そのままほっといて、僕は手洗い場に向かい貰ったロキソニンを1錠飲むことにした。
薬を貰っといて悪いのだが、彼はクズなので念のため裏面に書いてある薬の名前を確認した。
ちゃんとロキソニンと書いてあった。
Oさんに助けられることもあるんだなと素直に感謝していた。
痛み止めの薬の大切にも気付かされた。
しかし、その直後に、とんでもないことが起きてしまった。
僕が薬を飲もうとしたその瞬間、ロキソニンが手から滑り落ちてそのまま排水口の中に消えて行ったのだ。
残るロキソニンはたった1錠だけ。
…確か、Oさんも飲むから残りの1個はちゃんと返してと言っていた。
しかし、今は仕事中なのである。
つまり、この残り1個のロキソニンで最大限の出来高を叩き出せる者が飲むべきだろう。
すまない、Oさん…
僕はこれを飲むよ(笑)
だって遭難した救命ボートでは定員数をオーバーした場合は突き落としてもそれは無罪じゃないか…
1台目の救命ボートをうっかり沈めちゃった僕が言うのもなんだけどさ…
これがさ、ドラゴンボールの仙豆だとするじゃない。
仙豆が残り1個なわけよ。
この現場で仮に僕が悟空だとしてね。
現場が地球だとするよ。
やっぱさ、地球は守らなきゃいけないじゃん。
残り1個の貴重な仙豆をさ、チャオズに食わせるわけにはいかねえ(笑)
ここでチャオズに仙豆を食わせたら、さすがに連載が打ち切りになると思うんだよ。
Oさんには薬を落としたの謝ったら許してくれたけどね。
まぁ僕より10才以上も年上なんだからそれくらいの兄貴感はあって欲しいわね。
Oさんはそれから母親に電話を掛けて、病院で吐き気止めの薬とロキソニンを貰ってくるように伝えてたけどね。
やっぱり我慢はできないもんね。