文化祭の女子 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

イカれた彼女に連れられてライブに行ってきました。



そのアーティストに関してはバレると面倒なので書きませんけどね。



まずライブが行われる会場に向かう前に彼女から渡された服に着替えさせられました。



アーティストのライブ会場で売ってる物販ってやつですね。



アロハっぽいシャツと帽子や腕に付けるやつを渡されて、最後にタオルを首から掛けて完成しました。



完全なる“にわかファン”の出来上がりです。



彼女からはアーティストの最新のアルバムや過去の音源(メンバーのソロの曲も含む)が入ってるやつをライブの1週間くらい前に渡されていました。



これを聞いてライブまでにちゃんと勉強してくるようにと…。



でも、まぁ、聴きませんよね。



彼女のプレゼンが下手だったのもあると思います。



なんて言うのかなぁ。



歌詞の世界観や音楽性がどうこう語るよりも、お気に入りのアーティストに女として抱かれたい感が強かったんですよ。



そこは別にいいと思います。



僕も10代の頃に安室奈美恵でオナニーしたことがありますからね。



ただね、オナニーしたことは認めますけど、歌詞の世界観とか音楽性とかにはさほど興味はなかったと思います。



僕は性的興奮と楽曲は別物だと感じたいわけですよ。



部屋にポスターを貼ったりだとか、セックスしてる時に曲を流したりとかはしませんからね。



こんな部屋では何万回セックスしても上達しませんよ。



精神と時の部屋で自分の技を磨かないと上質な快楽は得られません。



そうじゃないと、あと少しでイケそうでイケない時にどうしても頼ってしまいますからね。



「安室ちゃ~ん!!オラに力をわけてくれぇぇえええーーーぃ!!」



もう最低じゃないですか(笑)



腰を振るテンポが途中から太鼓の達人みたいになっちゃいますからね。



ただね、これは女も同じなんですよ。



セックスする時に目を閉じてる女は信用しませんからね。



イク前にちゃんと報告しない女も怪しいもんですよ。



僕はセックスは音楽と同じだと思うんですよ。



女性の身体とは指先で操る鍵盤であり弦であり、舌を這わせ息を吹きかける様は管楽器のようでもあり、更なる激しさや強さを求め硬直したその筋肉はまるで打楽器のようでもある。



女を抱くことはオーケストラを指揮しているのと同じである。



つまり、こういう女というジャンルではなくて、セックスという音を楽しむ意味での音楽が好きなわけ。



クラシックだったりジャズだったり、ロックや民謡も同じなの。



感じてる気持ちよさは生命としての真実だから。



……てか、これ、何の話?



イカれた彼女とライブに行った話でしたね。



で、彼女は追っかけみたいな感じで全国ツアーを行けるところは行ってるみたいなのよ。



そこで同じように追っかけしてる仲間みたいな、友達みたいな感じの、仲良くしてるファンが20人くらいいるらしくてね。



Twitterで知り合ってライブ会場でも顔を合わせて、終わってからみんなで居酒屋に行ったりカラオケに行ったりしてると。



まぁ追っかけするくらいですから熱狂的なファンだと思いますよ。



その20人くらいの熱狂的なファンの中に僕のような“にわかファンでも何でもない下ネタ男”を放り込もうとしているわけです。



歌える曲が1つもありませんからね。



駅に着いた時点で似たようなTシャツ着てるファンがゴロゴロいるんですよ。



敵は20人だけじゃねえなと。



ファンじゃないことがバレたら殴られんじゃねえか?って感じの怖そうな男もいるわけ。



僕も数々の修羅場を潜り抜けてここまでやってきた男ですから、まぁ何とかなるかと思ってたんですけどね…。



会場前に集まるファンの雰囲気なんすけど。



これ、ちょっとした宗教だなと。



集団心理と同調圧力が半端ねえなと。



それと、やっぱ女のファンが多いのでアレなんですよ。



僕の苦手な空気なんですよ。



文化祭に燃えてる女子のアレですよ。



女の子としてのワクワクしてる純度やピュアさはいいんだけど、女の子同士特有のちょっとしたキャピキャピ感とかボーイッシュ感のあるノリってあるじゃないですか?



文化祭を死んだ魚のような目で眺める少年だった僕としては、ちょっとこの女子たちの輪には入れないなと。



僕の中学二年の時の文化祭での思い出が脳裏に甦るわけですよ。



文化祭が終わってね、クラスの全員が着席してるわけですよ。



その教室の黒板の前に立って、クラスの全員に向かって謝罪をするというね…。



クラスのみんなで作った大切な恐竜のオブジェを僕らが破壊したことについての謝罪をね…。



しかも、これ、隣のクラスのやつね…。



自分のクラスじゃなくて、隣のクラスのやつを破壊しちゃったわけで…。



修復できないレベルの壊し方でね…



みんなで笑いながら大量の新聞紙の山が教室に散乱しててね…。



それを見た隣のクラスの女子が悲鳴をあげてね…。



なんか、文化祭が終わったらその恐竜のオブジェの前でクラス全員で記念撮影をする予定だったみたいでね…。



一応ね、その隣のクラスにいた男子二人には



「もうそろそろ文化祭も終わるから壊していい?」



って確認はしたんだけどね…。



当時は携帯とかなかったから、壊してもいいのかすぐに連絡は取れないからね…



僕らの世代はその場の雰囲気を重視する時代だったからね…。



隣のクラスのやつの



「いいんじゃねえの?(笑)」


で、恐竜の首に蹴り入れたよね…。



早過ぎたモンハンって呼んでるけどね…。



恐竜の歯とか紙で出来た卵のパックを利用して作ってあったからね…



たぶん放課後に残ってさ、みんなで作ってる時に誰かがひらめいたんだろうね…



恐竜の歯の部分は丸めた新聞紙とか切り取った段ボールだとリアルじゃないとかね…。



あの頃、リアルって言葉、流行ってたなぁ…。



「あっ、紙の卵のパックだー!!」



「そうだ!!それだー!!」



これにはノッポさんもワクワクさんもびっくりだよね…



踏んづけてやったけどね(笑)…。



尻尾持って振り回そうとしたらあっさり引っこ抜けてね…。



すげぇみんなで笑って壊してね…。



文化祭最高だなって…。


そしたら急に…。




「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!」



って絶叫されてね…。




そんで騒ぎになって学年主任に呼ばれてね。



壊した僕ら3人と「いいんじゃねえの?(笑)」って言った2人で事情を聞かれて説明してね。



学年主任も男だから説明を聞いて笑ってるのよ。



写真に残すって女の発想だからさ。



今でも女は飯食う前に写真を取るじゃんか。



だけど、男はちゃぶ台をひっくり返す側だからさ(笑)



それが男の祭りだから。



そしたら隣のクラスの担任が女の先生なんだけど、事情を説明してる部屋に走って入ってきて「いいんじゃねえの(笑)?」って言った2人に泣きながら思いっきりビンタしたからね。



で、学年主任も笑いながら、これはもう全員に謝るしかないなと。



そうそう経験できることじゃないですからね。



隣のクラスの全員に向かって謝罪するって経験はね。



女子とか泣いてキレてんのよ。



それに乗っかって男子も罵声を浴びせてくるわけ。



でも、隣のクラスの出し物はお化け屋敷なのよ。



コンセプトは恐竜のお腹の中って感じで、教室の入り口が恐竜の口になってて、出口が更に隣の教室で、そこに恐竜のオブジェが置いてあったのよ。



だけど、恐竜のお腹の中ってだけで中身は普通のお化け屋敷なのよ。



文化祭が終わった直後の謝罪だったから泣いてる女子とかもまだ幽霊の化粧して顔が真っ白で口から血を流してんの。



頭にボルトが刺さったフランケンみたいな男から「ふざけんな!!」とか言われんの。



ボロボロの服着た血だらけの顔面真っ青なゾンビから「クラスのみんなで協力して作った大切な…」もう、勘弁してくれと。



1回笑わせてくれと。



お化け屋敷じゃない、ここは本当に地獄だと。



この世界中の名だたるモンスターたちが教室の机に着席して泣きわめく光景は、早過ぎたピクサー作品なんじゃないかと。



文化祭のノリって怖いのよ。



文化祭が終わった後のいつもの日常に戻りつつある感情が怒りとなって僕らに降り注いだわけだからね。



1クラス分ね。



しかも中2だからね。



当時はネットもSNSもないからね。



汚ねぇ言葉と刺さるような視線と剥き出しの憎しみを田舎の同じ中学生から浴びせられるのに比べたら、顔も名前も知らない相手からのネットの炎上なんて可愛いもんだぜ。



隣のクラスの担任が女だったのもよくない。



あれだけの数の女を泣かせるんだから文化祭って凄いよね。



そんなわけで、このライブに偽物のファンとして参加したことに不安を感じていたのである。




つづく