友達の逆襲4 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

友達がやってきた。



友達ではなくなる為にやってきた。



なんとなく怖かった。



誰も友達に対して言わないことを言ってしまったのだから。



何も言わない優しさというのは相手に対して諦めただけだと思うのだけど。



旦那を連れてきて袋叩きにされるかもしれない。



友達はどんな顔をしているのだろうか?



何を言われるのか?



何をされるのか?



とにかく女という生き物はわからない。



俺にとってそれはトラウマのようなものなのだ。



過去には目の前で手首を切られるパターンもあった。



友達はいつもと変わらない感じだった。



それでも俺は警戒心のレベルをMAXにして友達と対峙していた。



友達と玄関先でどうでもいい挨拶をして鍵を受け取った。



これでまた友達を失うことになる。



とはいえ、思ってることをハッキリと言えないようじゃ、それは友達じゃないと俺は信じてる。



すると友達は部屋に忘れ物があると言った。



小さな“バレッタ”とかいう髪を留めるやつらしい。



部屋にバレッタ忘れてきちゃったかもと言うのだ。



だけど、なぜか俺にはそれが“ベレッタ”に聞こえた。



ベレッタ、それは確か有名な銃の名前だったと記憶していた。



そんな飛び道具を部屋に忘れていかれては困る。



こいつ、やっぱやべぇやつなんじゃねえか?と。



頭をフル回転させた。



まさかの銃殺か?
お前は知り過ぎてしまったパターンのやつか?



困惑してる俺をよそに、友達は靴を脱いで俺より先に奥の部屋に入って行った。



友達の後を追うように部屋に向かった。



一緒に探したけど、ベレッタもバレッタもみつからなかった。



俺の部屋は友達と出会う前のようにゴミが散乱したままの堕落した人間の安息の地ではなく、今では綺麗に片付いている。



だから落ちていればすぐに俺がみつけているはずなのだ。



一体なにがしたいのか訳がわからない。



友達は彼女がみつけたら誤解するでしょと笑っていた。



そして、俺が洗濯物をちゃんとタンスに畳んでしまっていることがわかると、偉いじゃんと上から目線で納得したように頷いていた。



部屋を出て台所の換気扇の下で、いつものように友達と最後の一服をして、どうでもいい会話をした。



それでも俺はキッチンに寄り掛かるようにして、友達が買ってきた包丁という名の凶器の出現を体でガードしていた。



何を企んでいるのか、何を考えているのかわからなかった。



すると、友達は、じゃあ帰るねと玄関先に向かうと靴を履いた。



あれ?



何もなかった。



俺の過去の経験とは違った。



友達は手首を切る訳でもなく、包丁で俺を追いかけ回す訳でもなく、相棒のベレッタで俺の眉間を撃ち抜くこともなかった。



笑顔で手をグーパーしながら閉まるドアの隙間から消えようとしていた。



その僅かに残った隙間から振り返る友達の顔を見た。



すげぇ悲しそうな顔をしていた。



怒った顔はわかる。



怒っているのだから。



笑っている顔もわかる。



面白いからだ。



それがもし作り笑いの顔だとしても、脳は勘違いしてポジティブになるらしい。



それは前向きなことだからいいのだ。



だけど、悲しい顔だけは違う。



それは悲しいからだ。



同い年の女ってことは同級生な訳だ。



もしかしたら同じクラスだった可能性もある。



教室で面白いことをやっても笑ってない女子がいたら、何であいつ笑ってねえんだとムカつくことがあった。



それってのは、つまり、俺は面白くなかったのか…?



なんかムカついた。



それでなぜか、俺の中のキムタクが叫んだ。



そう、キムタクばりの「ちょ待てよ」が自然と出てきたのだ。



このまま帰しては、こいつはダメになると。



いや、俺もダメになると。



このままだと俺が面白くないやつみたいな感じになる。



というか、ダメだった俺を変えてくれた恩人に対して、まだ恩返しができてないことにも気付いた。



友達が立ち去る姿を見送る景色には、本当ならその手前にはペットボトルのゴミが2年分も放置してあったはずだ。



友達が俺の為にしてくれたことに対して、俺はちゃんと同等の友情で返してはいなかったのだ。



たとえ10円だろうと、義理は欠いちゃいけねぇと返してきたヤクザがいた。



その年上のヤクザから教わったことがある。



遥かに年下の俺に仕事を教わったからと、別れ際に深く頭を下げて「お世話になりました」と言ったヤクザを俺は覚えている。



友達だと思ってると。



友達は友達だから…と。


友達を呼び止めて玄関に座らせた。



もう一度ちゃんと話をしようと思った。



友達は俺に対して何かをするのは、メリットや見返りの為じゃなく、やりたいからやるのだと言っていた。



だから俺も言うべきことは真っ直ぐに言わないといけない。



ただ、玄関は寒かった。



そんな俺に友達は声が震えてるから何を言ってるのかわからないと、暖房のきいた部屋の中で再び話し合うことになった。



風俗で働く上での心得みたいなことを俺が童貞を捨てたシングルマザーを例にして話をした。



働く上で明確な理由が前提にないと、女は落ちるところまで落ちてしまうと。



ようするに、世間が納得するだけの理由があれば、その世界にはまだ救いがあるからだ。



お金よりも大切なものがあると。



嘘をついたり、大切な人達を欺いて生きるのはよくないと。



友達はそんな俺の話を聞き終えると、「そんなの綺麗事でしょ!」と吐き捨てやがった。



綺麗事って何だ?



その言葉に俺はキレた。


誰がこんな女にしたんだ?と。



「元カレ、全員呼んで来いよ!!」と怒鳴っていた。



続く