中原中也
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きていた時の苦労にみちた
あのけがらわしい肉を破って、
しらじらと雨に洗われ、
ヌックと出た、骨の尖(さき)。
それは光沢もない、
ただいたずらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分(いくぶん)空を反映する。
生きていた時に、
これが食堂の雑踏(ざっとう)の中に、
坐(すわ)っていたこともある、
みつばのおしたしを食ったこともある、
と思えばなんとも可笑(おか)しい。
ホラホラ、これが僕の骨――
見ているのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残って、
また骨の処(ところ)にやって来て、
見ているのかしら?
故郷(ふるさと)の小川のへりに、
半(なか)ばは枯れた草に立って、
見ているのは、――僕?
恰度(ちょうど)立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがっている。
今日の「ガラスペンでなぞる文学の小道」は中原中也の『骨』です。
骨と言えば、生きている間に見られるものではないからこそ「死」の象徴とも言えると思いますが、そんなギョギョッとしてしまう「骨」をユーモラスに詠っています。
幽体となって現生界の骨を見ている自分と、その自分を見ている自分と…。つまり、登場人物は3人の自分なのだと思うけれど、最後の自分は果たしてどんな存在なのでしょう…
夢の中で見てるのかしら…
食堂の雑踏の中に坐って《みつばのおしたし》を食ったこともあったとか、《ホラホラ》って「ホレホレ見てみぃよ」的に自分に話しかけてるのも可笑しい。
そんな哀愁と滑稽さを掛け合わせたような今回のページ。およそ私の人生で書くことのないようなカクカク文字が、なぞっていて実に楽しかったです
書体:竹L(モリサワ)
用紙:HSライトフォース
筆記具:ガラスペン ふわり(硝子工房YUKI)
インク:竹炭(PILOT 色彩雫)
竹炭(take-sumi)という、一見するともの凄〜く濃いネイビーブルーのようなインクですが、水で濯ぐと随分赤みがあって驚きました。筆を使って水でぼかしながら描くアートなんかには面白い効果が現れるんじゃないかと思います。
(私にはそのくりえいてぃびてぃがもうないから誰か若い学生さんたちよ…ぷりーず とらい いっと あうと😁)