クレイグスリストは凄かった。車探してる人って、こんなにいるのかって。


少々あの車買取業者の手法にムッとしてた私は、その日の深夜にさっそくクレイグスリストに広告した。マウントシャスタに行ったとき、木立をバックに斜め後の角度から撮った、まるで車の広告のような写真があったから、それを使って。7500ドルで出してみた。


翌朝8時から電話はかかってきた。これも値切られるのは承知だ。でもいきなり最初の人から値切られない。売れなかったら連絡して~と名前と電話番号を残す人もいた。そんな中、今すぐ見に来たいという女性がいた。


ちょっと大柄なその女性は、1000ccくらいのバイクに乗ってやって来た。おかっぱ頭でスウェットにダボついたGパンといういでたちのその女性はスザーンと言った。うーん、いかにもスザーンって感じ。メカに強そうで、ボンネットを開けると、オイルチェックを始めた。オイルをそのまま指でぬぐうから、そこにあるぞうきんを渡そうと思ったら、そんな隙もあたえずそのままGパンのすそでオイルをぬぐう。あの…スザーン。


試乗をして、すっかり気に入った彼女は、しきりに「Myパートナー」はどういうかしら、相談しなきゃと、その「Myパートナー」を連呼していた。


翌日、メカニックに見せたいからもう一度来るといって、予約して別れた。


果たしてその翌日、スザーンはパートナーであるシンシアとバイクの二人乗りでやって来た。シンシアはスザーンとうってかわって、細身で、金髪のセミロングヘアがフワフワしてて、とっても可愛い女性だった。スザーンの運転で助手席に私が乗り、後方にはシンシアが乗って、彼女のいうメカニックのところへドライブした。


もう、見れなくなるサンフランシスコの景色。自分で運転してるときは、じっくり景色を眺めてなかったけど、他人の運転って楽チンだなあ~。しかも乗ってるのはレズビアンだ。いかにもサンフランシスコって感じ。3人で、キャッキャ、キャッキャいいながら、メカニックのところへ行った。


どこかのステーションに行くのかと思いきや、お友達のメカニックだった。いちおうメカニックな格好をしたそのスパニッシュ男は、ひとしきり車をチェックした後、両親指を立てて「Two thumbs up!」と言い、いくらで言ってきてるのかとスザーンから聞くと「Good deal!」と太鼓判を押してくれた。スザーンはお礼にシガーを一本渡すと、スパニッシュ男はえらく大喜びして、ハグして別れた。


帰りの車の中で「で、決めた?」と聞くと、「Yes!」と言い、「6500ドル!」と言ってきた。


おっ!きたよきたよ~。取引だ。


私「ダメよ。7500ドルなんだから。」


スザーン「6800!」


私「7500!」


スザーン「7000!」


私「‥‥(ムッ!)」


スザーン「7200!」


私「Deal!!」


そんな欲しいのか、いいよいいよ7200で。あ、でも、この後もう一人見に来る人がいるから、電話しなくちゃ、売れちゃったよって。


そんなわけで、部屋に戻って、その1時間後に見に来る予定でいた男性に電話した。その間、すでにスザーンは表でメモ帳に契約書を書き始めていた。


男性に「ごめんなさいね、売れちゃったの今、7200ドルで」と言うと、その男性は「僕は7400ドルで買うよ」と言ってきた。この200ドルの差は大きい。急いで表に飛び出して、


「待って、待って!彼が7400出すって言ってきたー!」と言うと、スザーンは全身思いっきりムッとして「7425!Deal!!」と覆いかぶさるようにして言ってきた。よっぽど欲しいのね。しかし、何なのその25って。


「(そこまで言うなら)どうして7500って言えないの?」と苦笑いすると、


「Because I'm cheap!(だって私ケチだも~ん)」って得意げな顔された。


かくして、私のホンダシビック・ハッチバックは、7425ドルでスザーンの元へと旅立った。