ある冬の寒い晩のことだった。


9時ごろ友達の家から帰って来ると、アパートのドアの入口を仔猫が横切った。そのアパートには越してきたばかりだったが、近所には茶トラのデブ猫と、ちょっとやせ細った黒っぽい仔猫がよく、うろちょろしていた。多分、そのやせ細った仔猫の方だったと思う。暗くてわからなかったが、そのままアパートの部屋に入ると、外でニャーニャー鳴いているのが聞える。


元来、猫好きだった私は、ドアを開けて、どこにいるのかしらと探すと、アパート(サンフランシスコの一軒家で、私はインローと呼ばれる地続きのガレージの脇の部屋に住んでいた)の2階へ続く階段の手摺りの上で、その仔猫は鳴いていた。


その当時、2階にはスパニッシュ系のシングルマザーが小さい息子二人と住んでいた。部屋の明かりはついていたので、あれほど鳴いてる猫の声に何もしないとは、そこの家の猫ではないらしかった。


仔猫は私を見つけると、一目散で走り寄って、そのまま開けてあったガレージのドアから、私の部屋へと入ってきた。黒っぽいまだら模様のやせ細った猫。私の足元にスリスリしてきて、離れない。喉のグルグルと足元のスリスリをとにかくやめない。


お腹がすいてるのだろうと思ったものの、家には何も食べさせてあげるものがなかった。かろうじてあったのは、冷蔵庫にあった餃子。まさか、「猫に餃子?」と思ったけど、それしかないんだもん、それをあげてみた。グルグルいいながら、顔を近づけるが、食べるわけはなかった。お水は良く飲んだ。嬉しそうに、私へのスリスリをやめない。


友達に手紙を書こうとして、机に向うと、手元にスリスリしてくる。何も書かせてもらえない。とにかくスリスリとグルグルをやめないで、私にくっついてまわっていた。トイレに行っても着いてくる。キッチンに立っても着いてくる。何度も踏みつけそうになった。いや実際、何度か踏みつけてしまって「ギャ!」と声をあげるのだが、「ごめんね~」とあやまると、またグルグルしてちっとも怒らない。


このアパートはインターネットのCraigslistで探したのだが、そこに「purr」と書いてあったので、猫はOKということにはなっていた。それでも、アメリカに来て、またどこかへ移るかも知れないときに、別れるのが辛いから、もうどこへも行かないというところが決まるまで、猫は飼うまい、と思っていた。


またガレージのドアをあけてあげるが、出ていこうとしない。外はすごく寒かったし、私にべったりの可愛い猫をまた放り出すのもなあ~と思って、「今晩は泊まっていきなさい」と言うと、嬉しそうにまたグルグルいう。


「トイレはないんだからね、トイレに行きたかったら、ここにするんだよ」と言って、トイレにペーパータオルを敷いておいた。


そして、その晩はいっしょの布団で寝たのだった。(つづく)