大学に入ってすぐに、教授に声をかけられて、研究について話すようになって。それは
簡単に言えば、数学の足し算や掛け算を『落ち葉が地上にふりつもる』ように考えるっていう
ことなのだけど、その比喩は好みじゃなかった。先生は少し、ペシミスティックだったのかも。
みんなは『層様フラクタル操作』って言う。まあ、名前はどうでもよくって。
当時この学問は、構造生物学や巨大分子を研究する化学者、言語哲学者と、
もちろん数学者にも、とても注目された話だった。だから僕は、すぐに層様フラクタル操作の
適用条件の分類を証明して、その他にも層間射影の一般化とか、境界の二重化による
特異点列の回避とか、そういう細々したことを証明して、劇的な成果を上げたんだ。
もう論文にまとめる時間が無いくらい、幾重にも証明が頭に浮かんできて。
しばらくして気付いたら、この分野から研究者が激減し始めてた。
たしかに、哲学や生物学や化学の分野に人たちが扱えるような、「簡単な」成果が出るには、
この分野は既に深くなっていた。それは仕方が無くって。でも、仲間の数学者から、
「層様フラクタルには近づかないほうが良い」という噂があるって、聞いたんだ。
僕がこの分野の全てを食い尽くしてしまうと思われてるって。
でもこの表現も、それほど刺さってこなかった。誉め言葉に聞こえるし。
辛かったのは、「君はこの分野を殺してしまうね」って、言われたことで。
新しい学生たちも、層様フラクタルを学ぼうとしなくなった。僕もそのうち、別の分野に移った。
ちょっとね、寂しくなったっていうのかな。研究者の激減は、この分野が枯れてしまったからでは
絶対にない。それは、誰よりも僕が保証する。
研究する余地も、興味深い問題も、まだまだたくさん在る。
だから、誰かが遊びに来てくれたら、僕に声をかけて欲しいなぁ。どうやってここに来たのか。
どこが好きなのか。何が疑問で、どこへ行こうとしてるのか。そうやって、たくさん質問したく
なるかもしれない。まだ、分からないけどね。
一人で歩きたかったら言ってほしい。そう言ってくれることだって、僕には嬉しいんだ。
それだけできっと、どこかで『落ち葉』を眺めている人がいるって、信じていられるもの。