『わたしたちに翼はいらない』 | 夢の扉をひらく鍵

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小説家志望者(私)のなんてことない日々を心のままに綴った日記です。


寺地はるなさんの『わたしたちに翼はいらない』を読みました。

https://www.shinchosha.co.jp/book/353192/


寺地はるなさんのサスペンス!どんな感じだろう…と、帯に書かれた「心の傷が産んだサスペンス」という言葉に不穏な空気を感じながら読み始めました。

すると…気になってどんどん読み進めてしまう!




ある地方都市に住む三人の男女。

マンション管理会社に勤める園田は、中学時代にいじめに遭い心の傷を抱えながら生きている。

そして、マンションから飛び降り自殺しようとするところから物語が始まる。


4歳の娘を育てるシングルマザーの朱音と、同じ保育園に娘を預ける専業主婦の莉子。


交差しなさそうなところで交わる三人。

ずっと信じてきた事や消えない思い。

様々なことを抱えながら、三人はどんな選択をし、生きていくのか。




印象的な場面や言葉が沢山あって、
噛み合わない会話や交差する思いにモヤモヤしながら読んでいました。

まず、莉子は自分の意思に反し
パートナーを選び結婚生活を送っているところ。
友人や周りから羨ましがられるよう、
学生時代ピラミッドの上にいて虐めもしていた大樹と結婚する。
結果、大樹は女を見下し仕事をしていない莉子に「おまえには分からない」と言ったり、保育園での問題を「つまんないことで電話するな」と言ったり。
挙げ句の果てに浮気もしていて、大樹のクズさにめちゃくちゃイライラしました(笑)


莉子が通り掛かった高校生を見て「いいなあ」と羨み、学生時代は最強だからと
まるで誰もがそう思っているかのように言う場面。
学生時代が最悪だった朱音には全くそう思えない。

人が生きて来た道はそれぞれ違うのだから、
自分のフィルターでしか物を見ることができないにしても、自分がそうだったから他の人もそうだと思いながら言葉にしてしまうのは怖いと思った。

寺地さんの作品には、価値観の違いの中で生まれる摩擦やモヤモヤが会話の中に沢山でてきて、読んでいてとてもリアルに感じる。


「友人」でなくともお互いが必要な時に側にいられる関係もいいなと思った。
たとえ人には言えない辛い過去があったとしても、今も辛くても、明るい方へ、自分が進もうとしたら望む方へいけると、そう思いたい。簡単なことではなかったとしても。

最終章に、心を救われました。