ことり。
目の前に運ばれてきたデザートプレートには、フォンダンショコラとバニラアイスがのっていて。
「・・・だったらちゃんと、向き合う時なんじゃないのかな。意外と顔を見たら普通に会話できちゃったりするかもよ?大切にしまいすぎて、見えなくなっているだけかもしれない」
とろり。
ふたつに割ったショコラから、とろけたチョコがこぼれて広がる。
ささくれ立った私の心をとかすように。
「それとも、本当は・・・まだ大好きでしょうがなかったりするのかな?」
「・・・・・・判らないんです。でも・・・」
ふっと、視線をさまよわせると、店員さんの背中越しに彼女を見つめるやわらかな瞳があって。
包まれるようなそのあたたかさ。ぬくもり。
私はそれを、知っている。
あれは、相手を大切に想う瞳の色。
「どうしよう、先輩。私・・・まだレンのこと・・・好きみたいです・・・」
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「もう一杯だけ、コーヒー飲んでいってもいい?」
二人組のお客様を見送った後で、表に出ている看板を手に戻ってくると、遠慮がちにコウヘイくんが聞いてくる。
壁の時計を見るともうすぐ二十一時で、やっぱり営業時間は大幅に延びてしまったけど。
いいよって答えると、また嬉しそうに笑って。
トレイとトングを手にする。
「明日の朝食、買ってこう」
「もうほとんど残ってないよね」
「大丈夫。明日は仕事で来れないしさ」
そう言って、いくつかトレイにのせる。
私はコウヘイくんのコーヒーを淹れにカウンターに戻って。
二人分のコーヒーを落としはじめる。
「掃除とか、手伝おうか?」
「お客様にそんなことさせられないよ」
戻ってきたコウヘイくんに、クスリと笑って切り返す。
一瞬、空気が変わってふっと顔を上げると、つまらなそうな顔のコウヘイくんがいて。
持ってきたトレイには、残っていたハートのパンが五つとバケットがのっていて。
「あれ、ハートパン全部?」
「・・・食べるの、食べ盛り男子だから」
ふてくされたようにまた顔を反らされる。
どう反応していいのか判らなくて、温めていた牛乳がお鍋の中でシュワシュワと沸騰しはじめるから。
スイッチを切って、沈黙を守ってしまう。
「・・・これ、カナさんのハートだから全部買っていく。明日来れないし、オレただの客だし・・・って訳わかんねぇ」
そのまま顔を隠してカウンターに突っ伏してしまう。
とくん。
意味もなく、心臓の音が跳ね上がる。
自分に言い聞かせるように理由づけして。
意味がない訳なんて、ないのに。
ぎこちないまま、コーヒーをカップに注いで。
自分用に入れたカフェオレもマグに注いで。
コウヘイくんの反応が怖くて、沈黙のままカウンターに回り、コーヒーを出してトレイのパンを用意した袋に詰めはじめる。
クセのない髪はサラサラしていて気持ちよさそうで。
シャツの首筋から覗く襟足もきれいで、うつむいたままのコウヘイくんにドキドキしながら。
あぁ。
買ってくれたパンを入れる紙袋、持ってこなくちゃ。
そう思い立って離れようとした私の手を、腕だけ伸ばして捕まえて。
チラリと、視線だけ私に向けるように顔をずらして。
「年下は、ダメ?」
甘えるようなまなざしに、言葉を奪われる。
答えられずにいる私に、身体を起こして。
つかんでいた手首をキュッと引き寄せて。
真正面から、私の瞳を覗き込んで。
「ほんとは最初から、好きだったんだ」
~~~続く。~~~