○find of happiness○ -14ページ目

○find of happiness○

日々を楽しむ。
小さなシアワセ。

そんな感じのオリジナル小説を
のんびり描いています。。。

駅前通りから離れた場所で。

この店はゆっくりと時間の流れに寄り添うように、存在している。

大学が近いこともあって、わりと若い客層ではあるが、時々、迷子が転がり込んでくることもあって。



変わらないもの。

変わってゆくもの。

変われずにもがくもの。

まるで生まれ変わったかのように、変化するもの。

長くこちらで暮らしていると、いろいろな変化を目の当たりにすることになって。


その流れは見ていて楽しいことばかりではないけれど。

それでも、人の力を信じてみたくなり。

護る天使の背中を押してあげたくなり。


そうして、我が護るべき存在。

ハシバ ヨウスケは、ひとつの可憐な花を見事に咲かせて、近頃はその日々を楽しんでいる。

私は、人の姿を借りて共存する、ハシバ ヨウスケの守護天使。

喫茶店のマスターをしているので、マスターとでも呼んでもらおうか。

って言っても、誰も呼んでくれないんだけどね。




「だから言ってるじゃないですか。僕の大事なノゾムがですね、ルキさんが護っているシュウくんとお友達になりたがってるんですよ!なんで彼はすべてを拒絶するんですか」


今日のお客は私の仲間。

守護天使のルキとライヤ。


まだ人間界に降りて十年ちょっとの、若い天使たちだ。


とても真剣に、とても困ったように。

目の前のカウンター席に座って、見た目中学生風のライヤが、ひとまわり年下風情のルキに詰め寄っている。

やわらかな猫っ毛の髪をゆらゆらさせて。


対するルキは、この先人間界に降りてくる天使たちの上に立つ者だが、今はまだいち天使で。

強気な瞳の色をライヤに放ちながらため息をこぼす姿は、先の未来を想像させるには充分な存在感を見せつけている。

黙ってさえいれば、可愛らしい幼児なのに。


「それをどう導くかは、おまえの手腕にかかってるんじゃないのか?シュウも今はまだ病んでいる最中だ。わしら天使がでしゃばるほどの事ではないだろう?」


呆れる様にライヤに一瞥を与える。

ぴしゃりと言いきられて、ひるんだライヤがぐっと言葉を飲み込んで。

それをごまかすように唇を尖らせながら応戦する。


「それはっ、そうなんすけど・・・どうにかしてきっかけが作れないかと思って・・・」


「本人らに任せておけばいいじゃないか。友達になりたいと思うならくじけず声を掛ければいい。ま、ある意味シュウも今はひねくれているから、興味のないものには時間を割かないかもしれないがな。中学生なんてそんなお年頃だろう?」


クスリと思い出したように笑って。

その瞳の色は、ライヤに放っていたそれと打って変わってとても愛しさにあふれていて。


「・・・興味、なかったんだ。なんだかそれって淋しくないっすか?」


「シュウがそれでいいと思っているうちは何でもないことじゃ。人の想いはそう簡単に操れないし、本来天使のわしらが操るものではない。その人自身が気づかなくては意味がないからな」


「ルキ様、厳しすぎですぅ」


カウンターの上で、小さな置き人形のように黙っていたフウリが泣きそうになりながらぽつりとこぼす。

この子はうちの店でバイトをしている少女の守護天使だ。



「わしはシュウの成長以外、興味がないからな」


ルキがフウリの小さなおでこをそっと人差し指でこづいて、カップに残っていたカフェオレを飲み干す。


「心配しなくても、めぐり巡ってちゃんと進むべき道を歩いていくんだ。おまえもそうとうな過保護じゃな、ライヤ」


「あたりまえじゃないですか!ノゾムはすごくいい子なんですから」


「ナギちゃんだって、すっごくいい子ですぅ!最近のナギちゃん見てたら、アタシ涙でてきちゃう。それもヨウスケさんのおかげなんですけど」


フウリが、そんな可愛らしいことを言うから。


「だろ?ヨウスケはいいやつだからな」


つい自分も話に加わって。

護るべき存在の自慢話にすり替わってしまって。

真剣に自慢しあう姿をちゃかしたりして。


本来。

護るべき存在の人間達に、天使はそっと寄り添って暮らしている。


同じく人の姿を借りて言葉を交わして導くもの。

決して姿を見せず、そうっと導くもの。

それぞれのスタンスで、それぞれのタイミングで。


「判ってるんすよ!」


ノゾムはシュウくんが羨ましいだけなんだ。

何でもないって顔して勉強もできちゃうし、絵だってうまい。

なのに、ちっとも他人に関心がなくて。

仲良くなりたいのに接点が見つけられなくて。



「シュウが抱えているものは、まだまだ浄化も消化もできてない。だから、他人に構う余裕がないし、関心がないんだ。人一倍、淋しがり屋なのに」



ダンッと勢いよく扉が開いて、パステルトーンの明るいジャケットを着た小学生くらいの女の子が店に飛び込んでくる。

今日はやたらと若い天使が集まってくるようだ。


「フウリ、いる?」


「アヤネちゃん?」


「聞いて!タクちゃんがサッカーでリーグ優勝してね。タクちゃん、ジュニアチームのMVPを取ったんだよ!」


まるで自分の事のようにはしゃいで、パタパタと小さな羽根を揺らして近づいていくフウリを、ぎゅうっと抱きしめる。


「すごいでしょ!タクちゃんのサッカーってほんと天才的!めっちゃかっこいいの。見ていて感動する!」


ここにもひとり。

こよなく守護する彼を愛する天使がいて。


続いて、扉が開く。

現れたのは、少しだけ営業マンが板についてきたヨウスケだ。

ちらりとにぎやかなカウンターに視線を送り、軽く手をあげて奥のボックス席に腰を降ろす。


「めずらしいな。今日はナギは休みだぞ?」


トレイに水を注いだグラスとおしぼりをのせてボックス席に声をかける。


「休みだからでしょ。これからデートするの!マッハで仕事かたしてきたんだ。待ち合わせ、ここがいいってナギが言うからさ」


ナギが来ることに反応して、アヤネに抱きしめられていたフウリが固まる。

アヤネがヨウスケに背を向けているおかげで、ヨウスケは小さな物体が人形だと思っているようで。


「カフェオレね」


「はいよ」


片方だけ口角をあげて、テーブルにグラスを置く。


「・・・相変わらずおっさんの店は客層が謎だなぁ。なんの集まり?」


のんびりと笑いながら、カウンターを指して。


「近所の悪ガキどもだよ。お菓子をねだりにくるんだ」


クッと短く笑ってカウンターに戻る。


ゆっくりと丁寧に淹れたコーヒーを温かいミルクで割って、ヨウスケのテーブルに運ぶ。

ほどなくして、遠慮がちにドアが開いて。


「いらっしゃい。ヨウスケ来てるぞ」


いつもいつも遠慮がちに扉を開くのがナギの癖だから。

姿が見える前に声をかける。

その言葉に反応して、一瞬だけ慌てて店内に踏み込んでくる。


「ナギちゃん・・・」


小さく息をのんで、聞こえないようにフウリが呟く。

そこには、昨日まで真っ黒で背中まで伸ばしていた長い髪を切ったナギがいて。

急いでヨウスケの座るテーブルに近づく。


「遅れて、ごめんね。美容室・・・カラーもパーマもはじめてだったから・・・時間かかっちゃって・・・」


心もとなくうつむいて、ヨウスケの反応を伺う。


「・・・似合うじゃん。めっちゃかわいーっ」


ヨウスケ、一瞬言葉失って見とれてたな。


「・・・っぁち」


まだ湯気の残るカフェオレを一気に飲み干して、小銭をテーブルに並べて。


「こんなかわいいナギをおっさんに晒しておくなんてもったいないから。デートしよっ」


おっさんは余計だ。

明らかに笑いをこらえているカウンターの面々を睨みつけて、視線で合図を送る。

ヨウスケが、嬉しそうに笑顔を見せてナギの手を取って。

またひとつ。

きれいな花を咲かせたナギを愛しそうに連れ出す。



「ナギちゃん、かわいかったぁ・・・」


アヤネの胸でうるうると涙を浮かべる。


「あれがナギの人生を変える人間。かなりお人好しそうな風貌だな」


そして、大切なシュウといずれ関わりを繋いでゆくふたりの背中を、そっとルキが見送る。



「そこがヨウスケのいいところだろ」


それは胸を張って言えるぞ。

ヨウスケは、本当にいいやつなんだ。



「めぐり巡って、ちゃんと出逢うんだな。やっぱりわしらが手を貸すまでもないと思うぞ、ライヤ。おまえのところのノゾムも相当ひとなつっこそうだからな。いつかシュウも心を開くかもしれん」


ふっと、柔らかく微笑んで。

隣に座るライヤと視線を合わせて。

そうだな。

惹かれあうのはなにも男女だけではない。

欠けているピースを補うように、人と人とはつながっていくものだから。





ひとりひとりが、神様と約束をして。

この世界に降りてくる。

天使と共に。



~~~続く。~~~