変わらない日常こそパーフェクト

 

 

今回記録するのは役所広司主演の『PERFECT DAYS』

2023年12月公開の映画で、現在も放映してる劇場はちょこちょこあるようです。

 

 

以下、感想(ネタバレ含みます)----------

 

 

50代男性・平山(トイレ清掃員)の生活をただ淡々と見る作品。平山は毎日の生活リズムがしっかりと決まっていて、神社の掃き掃除がされる頃起床し、台所で歯を磨き、植物に水を与え、缶コーヒーを買って仕事に向かう。ルーティーンをこなしてるだけなのに朝が早いとか無駄な動きがないというだけで、玄関に置いてある鍵をポケットに入れる動作さえかっこよく見えるから不思議だ。

 

 

平山の普通なところはこのルーティーンを毎日欠かさずしているということ。たまに携帯でネットサーフィンする日があったり、二度寝をする日があったり、、、なんてことは皆無。毎日毎日同じことを繰り返す。これが実は難しい。特に朝の無駄のないルーティーンは真似しようとしても中々できないと思う。そう感じるからこそ平山をかっこいいと思ってしまった。

 

 

平山のルーティーンは朝だけではない。トイレ清掃員の仕事は一切手を抜かず可能な限り納得のいく仕上がりにする。利用者がいれば配慮も忘れない。中にはトイレ清掃員を蔑むような態度の人もいるが平山は気にしない。客観的に見るとどちらが人間として立派か一目瞭然だった。確かに仕事の内容で生活レベルに差が出たり世間的な地位は変わるかもしれない。ただ平山を見てると、どんな仕事も自分なりに真面目に取り組むことはかっこいいと思える。他人の評価も大事だが自分が自分をほめてやれるかも大切なんだと感じた。

 

 

 

 

仕事を終えた平山は家に帰って銭湯に行き帰りに駅の地下にある居酒屋で一杯ひっかけていく。そしてほろ酔い気分で帰宅した後は眠くなるまで読書。休みの日は洗濯をして趣味の写真を現像し、綺麗なママのいるスナックに飲みに行く。これが平山のルーティーンで変わらない日々=パーフェクトデイズなのだと解釈した。

 

 

物語は大きな事件は起こらないが平山のパーフェクトデイズを少し狂わせる出来事は起こる。

 

 

仕事の同僚が狙っている女の子の為にお金が必要というからお金を工面してあげたり、その狙っているという女の子に大切なカセットテープを盗まれてたり。最終的に女の子は平山にカセットテープを返しに来るのだが、謝罪の意味なのか別れ際に平山の頬にキスをした。

 

 

平山は驚いた様子を見せたもののすぐに平常心に戻った。つもりだったが、客観的に見ると明らかにいつもよりテンション高くなる(笑)機械みたいに淡々とした生活を送る平山も実は人間らしいところがある様子が垣間見れて視聴者としてなぜか嬉しかった。

 

 

そのあとも平山の生活は少しずつずれたことが起こる。いつも行く居酒屋が普段より繁盛していていつもの落ち着きが感じられなかったり、車のガソリン代が無くて歩いてお金を工面しに行ったり。同僚が急に仕事を飛んでしまったり。変わらない日々も少しずつ変化が訪れる。

 

 

妹の娘が家出をしてきた際は、平山は最初こそ迷惑そうだったが結局姪を受け入れた。普段心から人に頼られたり教えを乞われたりすることがない平山はきっと嬉しかった部分もあったと思う。

 

 

自分が平山の立場だったら、年頃の姪が頼りにしてくれただけで何となく自信が持てる。普段おじさんが寝てる布団を抵抗なく使ってくれるのも実は少しほっとしたかもしれない。”こんなおじさん”でもなんの偏見も持たず接する姪は、1人を満喫する平山にとっても心地の良いものだったのだろう。

 

 

 

 

姪が妹に引き取られるシーン。妹から言われた「ほんとにトイレ掃除なんてしてるの?」という言葉を、平山はどう受け取ったのだろうか。私はその言葉自体はそこまで気にしてはいなかったように思えた。ただ、姪の迷惑料として昔平山が好きだったお菓子を手土産にくれたことや姪を見て昔の妹を思い出して、変わっていない妹と、もうあの頃のような関係には戻れない変わってしまった妹とを同時に感じて、なんだか涙が出てしまったのではないかと思った。人は一生変わらないなんてことは出来ない。できることなら変わりたくなんてないと思っている平山にとって、妹と姪の存在は心を揺るがす出来事だった。

 

 

姪が妹の元に帰りまた一人になった平山。またいつものように行きつけのスナックに飲みに行く。するとスナックのママと見知らぬ男性が抱擁しているのを見てしまう。驚いた平山はスナックを後にしコンビニで缶ビールと普段は吸わない煙草を購入する。このシーンも平山の人間らしさが表現されている。別にスナックのママを狙っていたわけでもないし自分がどうにか出来るとも思っていなかった(と思う)平山。でもいざママの隣に違う男がいると飲まずにはいられなかった。

 

 

結局、抱擁していた男性はママの元夫で今はそのような関係ではないこと、元夫は癌になってしまいいつ会えなくなるかわからないという理由で元妻に会いに来ていたことが男性本人の口から説明される。元夫からママのことを頼むといわれた平山は、自分はそういうんじゃないと否定しながらも、コンビニで缶ビールを買った時よりも明らかに表情は朗らかだった。

 

 

 

 

平山の日常はパーフェクトデイズに戻っていく。朝目が覚めたら歯磨きをして植物に水を与え缶コーヒーを買って仕事に行く。同僚が抜けた穴も会社が新しい人員を確保してくれたおかげでいつも通りの仕事量に戻った。返ってきたカセットテープからお気に入りの曲を流しながら次の現場に向かう。きっと仕事終わりに行く銭湯も居酒屋も、たまに行く本屋も、ママとの関係も、また変わらない日常を送ることになるだろう。

 

 

運転している平山は自然と微笑んだ。

 

 

そして平山の目からは確かに涙が溢れていた。

 

 

私は、泣いているのか笑っているのか、たぶん平山自身も分かっていないと思った。これは嬉しい笑いなのか悲しい涙なのか、ではなく、自分が今笑ってるのか泣いてるのかさえ分かっていないと解釈した。

 

 

変わらない日常が平山にとってのパーフェクトデイズ。そこに訪れた少しの出来事。その出来事に自分の中の何かが変化することを無意識に期待したことに気づいたのか。結局その変化では何も変わらず平山の人生に大きな変化は訪れなかった。平山は変わらない日常こそ至高と思っているしきっと最後までそう思っている。ただいざ変わりそうな雰囲気になるとそれもいいなとどこか変化を期待してしまった自分がいたのも確か。変化を期待してしまった自分への辱めと変わらない日常が戻ってくれたことに対しての、あのラストシーンだと思った。

 

 

平山の表情は何とも言えない。どういう感情?そこの解釈は見た人によって違うと思う。そもそも平山は口数が極端に少なく劇中もセリフが異様に少ない。表情や身振り一つで平山の考えや人間性をここまで伝えられる役所広司の演技力たるや、本当に最高だった。役所広司だからこそ、なんの変哲もない物語を最後まで飽きることなく楽しめたと思う。

 

 

この作品はどこにでもいる男性の生活を観察するような印象を持つかもしれないが、平山の生活は至極真っ当で、平山みたいに規則正しく自分がしたいことをやって仕事にも妥協せず取り組んでいる人が世の中にどれほどいるだろうか。この作品を観た人のレビューの中に「毎日をしっかりと生きていこうと思った」といった趣旨の投稿がチラホラあった。その気持ちがすごくわかる。どこにでもいるはずの平山の生活はなぜかかっこよく見えたし同じようなことが出来れば充実することだとも思った。この作品を観て自分の生活について考えさせられたし何でもない日常はその人の努力によって維持されるもので、すごく抽象的な感想だけれどもとにかく自分も頑張ろうと思えた。

 

 

自分も、ということは平山も頑張っていると感じたということ。平山をフィクションの登場人物としてでなくほんとに存在する人として捉えている。平山はほんとにいる。そう思わせる役所広司は最高な役者さんの一人です。

 

 

映画『PERFECT DAYS』面白かった。ネタバレ気にせず見れる人は是非劇場へ。

 

 

 

おすすめ度

●●●●●●●●●● 10

 

平凡だけど退屈はしない。時間が経つほどずっと平山を見ていたくなる。ラストシーンは色々な感情が織り交ざると同時にまだ終わってほしくないな~と素直に思った。

 

 

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