書籍 『重力ピエロ (新潮文庫) 』 伊坂幸太郎 | 福玉本舗〜ノンジロウのブログ〜

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【兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは―。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。(「BOOK」データベースより)】

 今作は2004年版このミステリーがすごい!第3位に輝いた作品です。確かに様々な謎に引っ張られて読み進んでいくのでミステリーではあるんですが、誰が犯人なのか?っていう部分はわりと簡単に見当がつくと思います。なぜ犯人はそういうことしたのか?がキモになる作品かなと思います。家族の物語としてもよくできてる作品だと思います。

 「春が二階から落ちてきた」という文章から始まり、同じ文章で締めくくられるんですが、伊坂さんのセンスが光る作品でした。
 伊坂作品といえば様々な蘊蓄が盛り込まれてるのが特徴なんですが、今作は特に多いですね。芥川龍之介の「地獄変」、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」、井伏鱒二の「山椒魚」、太宰治の「走れメロス」、ガンジー、マイケル・ジョーダン、遺伝子、DNA、ネアンデルタール人、クロマニョン人、ゴッホ、ゴダール、ボノボ、ローランド・カーク、グラハム・ベル、ピカソ等々多分野にわたって伊坂さんの博学ぶりが伺えます。

 ただちょっと「うーん・・・」って思う部分もありますが、ここからネタばらしを含みますのでご注意下さい。

 この作品のテーマとして「生みの親より育ての親」というか「DNAより家族の絆」っていうのがあって、そこは実にうまく作品としてまとめてると思うんですが、結果的に春が実の親を殺すことでその親と同様の犯罪者になってしまうわけです。まあ、犯罪者気質が遺伝するなんてことはないんでしょうが、結局血のつながりを完全に否定できない印象を受けてしまって、せっかくの「DNAより家族の絆」の部分が若干ぼやけてしまう感じがしてちょっとモヤってしましたね。

 映画版も続けて観たんですが、キャストはすごく原作のイメージに合ってましたね。ただ内容的には原作と比べると見劣りはしました。夏子さん役は吉高由里子はバッチリなんですが、もっと原作のように癖のあるキャラで描いてほしかったですね。

 これで文庫化されてる伊坂作品34作はすべて読みました。(企画モノやアンソロジーは除く)
 個人的に今イチだなと思ったのは『魔王』『モダンタイムス』『PK』の3作だけであとは全部ひとにおすすめ出来るクオリティだと思いますね。
 特に好きな作品は長編では『ガソリン生活』『SOSの猿』『砂漠』『死神の浮力』『夜のクーパー』『マリアビートル』、短編では『死神の精度』収録の「死神の精度」、『首折り男のための協奏曲 』 収録の「僕の舟」などです。
 キャラクターでは『バイバイ、ブラックバード』の繭美、『チルドレン』『サブマリン』の陣内、『死神の精度』『死神の浮力』の千葉、あと色んな作品に登場する黒澤などが印象に残ってます。
 残りの作品も文庫化され次第順次読んでいきたいです。