"小林賢太郎君がパスして、竹原功記君に繋いだ"奇跡(中編)。 | ノーナ・リーヴス オフィシャルブログ「LIFE」Powered by Ameba

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西寺郷太・奥田健介・小松シゲル NONA REEVES

(前編からの続き)

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(4)2003年の出会い

 そもそも、今回の「20世紀のノーナ・リーヴス」企画。6枚の初期作品「再発」のきっかけを作ってくれた男こそ、小林賢太郎君でした。

 彼との出会いは、2003年。賢太郎を僕に紹介してくれたのは、写真家のHIROMIX。 恵比寿で開かれた誰かの誕生会に遅れて彼はやってきました。知り合ってすぐに、同い年の僕らは仲良くなり、僕は賢太郎の第二作「Sweet 7」を本多劇場で観劇。僕も当時の最新作「NONA REEVES(ノーナの『ノーナ』)」をプレゼントしました。

 そして、翌2004年、彼のプロデュース公演3作目「ペーパー・ランナー」のために、僕は「ニュー・ソウル」を書き下ろすことになります。当時、僕らは30歳。確か、賢太郎からは「30代のテーマソング、疾走感のある曲を書いてほしい。ただし劇中でも使うので歌詞のないインストゥルメンタルで」というオーダーが来たと思います。

 ちょうどこの時期、僕は度重なるレコード会社移籍や、ノーナにとって大切な仲間を交通事故で突然失うなど混乱する日々でした。ほぼ同期デビューの、沢山のバンドが解散したのもこの頃です。でも、僕はバンドや音楽で生きて行くことを、諦めたくはありませんでした。それを反映してか、僕の作品の中でも「ニュー・ソウル」は最もメッセージ性の強い「意思表明」の曲となりました。

 実はこの曲、最初はオーダー通り、「オルガン・ソロのインスト曲」である「ペーパー・ランナーのテーマ」として完成していたのですが、どうしても歌詞を乗せて歌いたくなり、駄目元で「こんな『歌詞入り』も出来た」と賢太郎に「ニュー・ソウル」を聴かせた、という流れを経て完成しています。

 歌詞と音を送り、恐る恐る彼の反応を待っていた夜のことは忘れられません。しばらくすると、カタカタとFAXが動きだし、彼のアトリエの名前がディスプレイに点灯。そして、まず一枚目にどでかい習字の筆文字フォントで「最」・・・。なんやねん、と思っていると、もう一枚カタカタ音を立て、これまた大げさな習字の筆文字で「高」・・・。二文字で感想が送られてきたのは笑いました。流石、賢太郎だなぁ、と。

 それから数年、お互いの舞台やライヴを観たり、CDやDVDなどが完成するたびに感想を言い合い、飲んでは色んな話をしていました。ただし、2009年頃から2010年にかけては、賢太郎が二度渡米してニューヨークで「武者修行」していたこともあり、後から思えばという感じですが、それまでの関係性からすると珍しいほど「疎遠」になっていました。

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(5)「ディスティニー」を信じる? 「ディスティニー」を信じない?



 2010年、夏の終わり。賢太郎からの久々の電話が。出ると、あの美声でゆっくりと「次の舞台で、ぜひ『オーガスト』をテーマ曲にしたいんだけど、いいかな?ニューヨークでひとりの時、ノーナをめちゃくちゃ聴いてたんだよ。郷太の声のおかげで頑張れたよ」と、言ってくれました。嬉しかった。

 賢太郎の作品は大好きだし、断る理由はありません。というわけで、2010年10月、小林賢太郎プロデュース公演7作目「ロールシャッハ」のテーマソングに、「オーガスト」が決定することに。

 ただ、この時僕は二つの意味でびっくりしました。

 まず一点はその電話をもらった時点で、確か舞台の幕が開くまであと一か月そこそこしかなかったこと。何事も準備万端でことにかかる彼にしては珍しく差し迫ってるなと。それと「え?『オーガスト』?また、賢太郎、ある意味マニアックな曲選ぶなぁ(笑)」という作者としての正直な気持ち。

 くしくもそのちょうど10年前、2000年10月にリリースされたアルバム「ディスティニー」に収録された「オーガスト」は、英詞のシンプルなギター・ロックです。小松との歌のかけあいもあり、密かな「人気」はあり、僕も気に入っていました。

 ただ、筒美京平さんのプロデュースによる「ラヴ・トゥギャザー」「DJ! DJ! ~とどかぬ想い~」をはじめ、ライヴの定番「パーティは何処に?」「二十歳の夏」など、ポップでグルーヴィーで華やかな「日本語でのノーナ」が完全に確立された「ディスティニー」の中では、どちらかと言えば「地味」なイメージと言ってもいい曲でした。

 もちろん、この時まではいわゆる「ベスト盤」や「フリー・ソウル」のようなコンピレーションにも入ってもいません。

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(6)悲願への第一歩

 さて、この時の舞台「ロールシャッハ」。ニューヨーク帰りの成果なんでしょうか、舞台を見て、僕はぶっとびました。それまでに観た賢太郎の劇作品の中でも、圧倒的に研ぎすまされたストーリー展開と、シンプルながら様々なシチュエイションに当てはまるテーマの深みに引き込まれました。演者4人の卓越したスキル・・・。ともかく凄かった。

 音楽も、この舞台のために賢太郎の演出の要望を聞きつつ「オーガスト」をリアレンジした、インストゥルメンタルを奥田とともに作りました。なにより、賢太郎が無数の候補曲からチョイスしただけあって、恐ろしいほどに「オーガスト」は、彼の舞台「ロールシャッハ」にフィットしていました。重要な場面で響き渡る「オーガスト」を聴きながら、そして観客の反応を体感するたびに感動していたんです。

 が、とても残念なことがありました・・・。

 それは、アルバム「ディスティニー」が、この時ワーナー・ミュージックではすでに廃盤だったことです。

 つまり「オーガスト」は、この時、正式に売ってなかったのです・・・。

 舞台や映画が終わると、サウンドトラックやパンフレット、グッズなどの売り場があり、とても感動した場合などに劇場を訪れた人が買って帰る、これは自然なことです。でも、急にテーマソングに決まったこともあり、再発売に動こうとも間に合いませんでした。

 Twitterなどで、小林賢太郎君や、ラーメンズのファン、そして演劇好きのお客さん達から「ノーナを初めて聴いた。『オーガスト』が欲しい!どこで買えるんですか?」という沢山の質問ももらいました。僕が残念がっていると、賢太郎が「実は、『ロールシャッハ』は二年後に再演しようと思ってる。少なくとも、その時に間に合えばいいじゃない?」と言ってくれました。

 これをきっかけに、ワーナー、コロムビア、徳間の三レーベルと交渉して、ノーナ入門編として「ベスト盤」を二枚リリースすることになりました。

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(7)「ワーナー・ミュージック・イヤーズ」「コロムビア・徳間イヤーズ」の発売

 まず、2011年。「オーガスト」も収録された「WARNER MUSIC YEARS」がリリースされました。

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 そして、半年後に「COLUMBIA & TOKUMA YEARS」が発売。

COLUMBIA&TOKUMA YEARS 2002-2009/CRYSTAL CITY

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(8)オリジナル・アルバム、再発の野望

 僕がジャケットのイラストを描き、盟友 kink さんが美しいアートディレクションを手掛けたこの二作「WARNER MUSIC YEARS」「COLUMBIA & TOKUMA YEARS」は、ずっとコンスタントに売れ続けており、まず「ノーナの歴史」を二枚でおさらいするには最適のアルバムとなってます。デザインの統一性もやったね、という感じでした(きちんとするのが好きなので)。

 もちろん、再演された2012年の「ロールシャッハ」公演時には記録的な売り上げで、何度も欠品してしまうほど。賢太郎も喜んでくれ、ステッカー用に推薦コメントを書いてくれました。

 この二作は、僕らの事務所、ココモ・ブラザーズと、そのレーベル「クリスタル・シティ」(スモール・ボーイズなどもここから)が、直接メジャー・レーベルとライセンス契約を交わして発売されました。

 この流れの中で、僕のように執着心の強い人間が「じゃあ、アルバムも再発したい!」と思うのは当然と言えば当然なのですが、「ベスト盤」に比べるとオリジナル・アルバムの再発はなかなかハードルが高い。
 それに、なんといっても新作の制作や、楽曲提供、プロデュースなどと忙しかったものですから、過去作品のリイシューへの意識はどうしても後回しになってしまいます。

 心の奥底で、「あぁ、どうしようかな?」などと思ってた矢先に、ヴィヴィッド・サウンドのテラちゃんから「全部うちからリリースしてよ」と売り込みがあり、前編で書いたような流れになるというわけです。

 後編は、いよいよタイトルの「"小林賢太郎君がパスして、竹原功記君に繋いだ"奇跡」について書きたいと思います。

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