先月のこと、日本橋の三越本店で開催されていた
「第69回 日本伝統工芸展」を観ました
朝日新聞の夕刊(9月13日付)に、作品が紹介されてい
たので、これは観ておかないと、と妻と駆けつけた次第。
会場でもらったパンフレットには、「日本工芸の技と美が
集結する公募展」とあり、以下のように紹介されていました。
……………………………………………………………………………………………………………
我が国には、世界に卓絶する工芸の伝統があります。伝統は、生きて流れているもので、永遠にかわらない本質をもちながら、一瞬もとどまることのないのが本来の姿であります。伝統工芸は、単に古いものを模倣し、従来の技法を墨守することではありません。伝統こそ工芸の基礎になるもので、これをしっかりと把握し、父祖から受けついだ優れた技術を一層練磨するとともに、今日の生活に即した新しいものを築き上げることが、我々に課せられた責務であると信じます。
昭和25年、文化財保護法が施行され、歴史上、若しくは芸術上特に価値の高い工芸技術を、国として保護育成することになりました。私どもは、その趣旨にそって、昭和29年以来、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の7部門にわたり、各作家の作品を厳正鑑査し、入選作品によって日本伝統工芸展を開催してきました。このたび、第69回展(令和4年度)を開催し、広く人々の御清鑑を仰ぎ、我が国工芸技術の健全な発展に寄与しようとするものであります。
……………………………………………………………………………………………………………
全国から千点以上の応募があり、入賞した16点を含む
入選作品555点などが展示されていました。
伝統工芸展といえば、生活用具としての作品というより、芸術作品のそれであります。したがって、精細なもの、奇抜なものもあって感心しっぱなし。ただひとつ難をいえば、会場がデパートの催物会場なので人は集まりやすいのですが、美術館や博物館などと比べて鑑賞するには雰囲気がもうひとつ、といったところだったでしょうか。
しかし、白布の上に並んだ作品は、それぞれに味わいのあるものでした。先には佳子さまも鑑賞されたという会場を妻とめぐり、楽しみました。
+
ところで私的な話になりますが、「陶芸」については私も若いころ3年ほどクラブに入って作っていた経験があるので、とくに興味があります。
壺や茶碗など、作品は轆轤(ろくろ)をまわして作るのではなく、手捻り(てびねり)という紐づくりで、土をうどんのように細くして(むろん、うどんよりは太い)、手でひねりながら下から上へ積み上げていくのです。したがって、ひとつひとつ形の違うものが出来あがり、面白かったですね。
陶芸をやめるまで、ずっとその方法で作っていました。それら作品は今も身近に置いていますが、仲間と一緒に出品する「作品展」では、会場に来られた人から何度も「売ってほしい」と言われた経験があります。とくに画廊の店主から言われたときは光栄でしたね。でも、「趣味」でやっていたことですから結局、売りませんでしたが。
しかし、作品を差し上げたことはあります。
いちばん遠くに旅立って行ったのはアメリカ・ロサンゼルスの近郊でした。真っ黒の釉薬に覆われた小ぶりの壺で、横長で背が低く私がいちばん気に入っていたものです。
ところが、娘が高校生のとき交換留学で渡米した家庭のペアレントがその後、日本の我が家を訪れた際、床の間に飾っていたその壺をいたく気に入って「ぜひ欲しい」と所望されたのです。私は間髪を入れず「はい、どうぞ」と差し上げました。1年間、娘がお世話になった方です。惜しいという気持ちより、貰っていただける物があってよかった、と喜んで手渡しました。ご主人は手のひらに載せて、ずっと眺めておられた……。
アメリカに渡ったあの壺は、「我が娘」の分身のようなものかもしれません。それを眺めるペアレントは自分たちの子のように思い、「我が娘」をいつまでも忘れずにいてくれているはずです。
(記 2022.10.1 令和4)