♦ ピサ
フィレンツェからバスで1時間半。そこでバスを降り、5分くらい斜塔のある場所まで歩いた。途中、道の両側にはテント張りの店がずらりと並んでいる。ガイドの女性が「このあたりで土産物を買うときは要注意!」と、耳につけているレシーバーからのアナウンス。外国からの観光客は物を手にしたとたん法外な値段をふっかけられ、断ることができなくなることがある、とか。
そして、大きな門をくぐり抜けた目の前の向こうに真っ白な「斜塔」が…。「おお、これだ!」と声をあげた。公園のような広場は甲子園球場より一回りは大きく見える。その中に「斜塔」のみならず、白亜の「大聖堂」と「洗礼堂」が並んで立つ。ここへ来るまで「斜塔」はポツンとひとつ建っているのかと想像していたが、じつはそうではなかった。陽光に映えて、その3点がほんとに美しい。そして、そこで2時間くらいを過ごした。
「斜塔」の前で説明を受けたあと、斜塔を登る。
高さは約58メートル、大理石で出来ている。1173年に着工したが、途中地盤沈下が起こり、工事を中断。その後、塔の中心軸をずらしながら完成にこぎつけたという。傾きは現在も続いており、南北の高低差は85センチもあるとか。
塔は「鐘楼」なので、階上に大きな鐘があった。塔の中の階段は灯台とおなじような感じで、296段を妻とふうふう言いながら登った。斜めに建っている塔の壁面の内側を登っていくわけだが、高低差があり傾いている階段に対して矯正しようとしているのか、脳は相当悩んでいるようだ。目が回りそう。少し登っては休憩しながらの“登山”だが、最上階でめまいに陥った妻は四つん這いになり、しばらく動けなくなった。いやはやたいへんなところ。
“苦労”したかいがあって、てっぺんから見るピサの町の美しいこと。すばらしい眺めだった。
余禄として――ガリレオ・ガリレイが、「重力による物体の落下速度は、その物体の質量の大きさに依らず一定である」ことを証明するために、このピサの斜塔から玉を落として実験した、と伝えられています(真偽のほどは分からないそうですが)。しかし今、その場所に居るという現実がとても嬉しかった。
塔を降りたあと、隣のドゥオモ「聖堂」の中を見学。ここもまた、静謐で聖性にあふれ、そして美しい。
最後に出発までの間を利用して、土産物店で「ピサの斜塔」を模した斜めに傾いたリキュールの入った酒ビンを買った=写真。グリーンの色がさわやかで、帰宅後わが家の居間を飾っています。まさに“美は乱調にあり”で、永遠に心を癒してくれるみやげとなりました。
(記 2020.2.22 令和2)