まさかオカルトでは 「孫氏の損」
おとつい、4月24日の朝日デジタルに、「ソフトバンクの孫正義社長が、ビットコイン投資で145億円の損失を出した」という米紙の報道が載りました。
(朝日新聞は同日夕刊に前文のみ掲載=東京本社版)
(引用します)
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ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が仮想通貨ビットコインに個人で投資し、1億3千万ドル(約145億円)余りの損失を出していたと、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が23日報じた。孫氏はビットコイン相場が最高値に近づいていた2017年の終盤に投資し、相場が急落した18年初めに売却したという。
複数の関係者の話としてWSJが報じたところでは、ソフトバンクが17年に買収した資産運用会社の共同会長で、ビットコイン投資家として知られるピーター・ブリガー氏が孫氏に投資を勧めた。孫氏の投資額は不明だが、ビットコイン相場はすでに年初から10倍以上高騰していたという。
WSJは「総資産190億ドルと推計される孫氏にとっては痛くもかゆくもない損失だろう」としつつ、「忍耐強く先見の明のある投資家という評判には傷がつきそうだ」と皮肉った。
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いやぁ、驚きました。あの「仮想通貨」に、投資の剛腕・孫社長までもがかかわっていたとは。「孫氏にとっては痛くもかゆくもない損失だろう」というコメントが示すように、本人は「ああ、やっちゃった!」くらいの感覚かもしれません。上手の手から水が漏る、です。
しかし、ちまたの経済の浮き沈みで四苦八苦している我々にとっては、他人事とはいえ、「何かが狂っている世界だ」と思ってしまうのです。つまり、個人投資なので、我々からすれば「遊び人の道楽」視しておればいいのでしょうが、はたしてそんなものでしょうか。
いまの世は、資本主義社会です。「カネ儲けのうまい者が、ちょっと投資に失敗しただけの話」なのでしょうが、庶民の感覚からすればとても了解できない話でもあるのです。
過去に、100万円の借金を返せずにみずからの命を絶った人がいました。孫氏の損失は145億円という途方もない額ですが、彼が命を絶つことはないでしょう。借金ではなく自身のカネですから。
カネの世界です。運や才覚で“命の値打ち”が変わるのです。これが我々が生きる現在日本の、いや世界のすがたです。ムヒカさん、どう思われますか。
経済のしくみについては、勉強不足で疎い私です。なじもうとしてもなじめないのです。では、その145億円はいったいどこへ消えたんでしょう。損をする裏には、必ず得をした人間がいるはずです。たとえば、競馬がそうです、宝くじもそうです。とすると、ビットコインの“経営者”のもになったのでしょうか。いや、そうではないとしたら「塩を海に流した」ように、誰も手の届かないところに消えて行ったのでしょうか。そのしくみが分からないのです。ニュートン・デカルトの洗礼を受けている私としては理解を超える出来事です。剛腕孫氏が、そんな根拠のないところにカネをつぎ込むはずがない、と私は思うのです。もしそうでなかったら、それこそオカルトになってしまう。
あれやこれやと考えるのですが、実体経済を超えて金融というしくみに取り込まれた現代社会のあり方になじめぬ私は、この世の落ちこぼれかもしれません。しかし、「現代社会は確実に病に侵されている」としか思えないのです。100万円の借金で死ぬ人がいる一方、145億円の損失を出しても苦笑いしていられる人がいる――
「何を言うか。個人がその才覚を生かし、拡大再生産を旨とする資本主義社会に寄与しているのだ。どこが悪いのか!」という声が聞こえて来そうです。
そして目を閉じ、パソコンの前でしばし瞑想をしていると、
こんな唱歌が聞こえてきました――
うさぎおひしかのやま
こぶなつりしかのかは
ゆめはいまもめぐりて
わすれがたきふるさと
いかにいますちちはは
つつがなしやともがき
あめにかぜにつけても
おもひいづるふるさと
こころざしをはたして
いつのひにかかえらん
やまはあをきふるさと
みづはきよきふるさと
(記 2019.4.26 平成31)