NHK語学講座は昔日の平和の北京を背景とせり
鈴木 敬子
まさかと思ったことが起きた。6月4日、天安門広場での惨状。戦後、輝かしい歴史を築いてきた中国のことだけに、分からない。玉石倶に焚かんとする愚は、中国3000年の歴史が泣く。
ところで、軍による数千の学生や市民への虐殺は、あまたの人によって詠まれ、新聞や雑誌に掲載された。なかでも、鈴木さんのこの歌には、他の人とは違った感懐をおぼえた。事件からすこし時間をおいて、自身の生活との関係で見ることの大切さ。
作者は中国語を勉強されているのであろうか。目の前のテレビ画面には、たぶん天安門広場や頤和園などが、まるで何事もなかったようにしずかなたたずまいを見せている。「すると、あの夜の出来事は何だったのか」。余計、作者につよく迫ってくるのであった。
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(歌誌「ハハキギ」10月号所収 平成元年 1989)