歌誌「ハハキギ」作品 ―14― (昭和64年・平成元年前期 1989)
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[1月号]
若きころ揃へそびれし全集の末の巻ありしばし手も出ず
開きたるページの上に一枚の枯れ葉落ち来て栞のごとし
原稿はすべてワープロ打ちとなる日の近づきし新聞社内
俺だけはパソコンなぞは弄らぬと宣言するも目の前に機器
民の世へ時代は大きく変はれども陛下の記事に尖らす神経
朝な夕なテレビに映る天皇の容体真似る我が子を責めず
[2月号]
夕餉終へ歌をうたひてほろ酔いの体ほろほろ木枯らしの街
[3月号]
パネラーの口には出来ぬ天皇制廃止を言ふはビルマ留学生
すつきりとしたりと言へば言へなくもなくて寂しき屋台なき道
年ごとに変はれるものの一つなり注連飾り減る家々の門
正月を仕事に向ふ我が影を移しつつゆく川に沿ふ道
清らかに掃かれし処と散らかりし処そのまま正月の朝
楼蘭に落語に歌に駅伝にテレビは正月玉手箱のごと
[4月号]
行幸の列車を橋より見下ろして覗き込みしは高校生のころ
社に着けばすでに崩御の報せあり昭和最後の日の編集局
たちまちに予定原稿解除され一面二面はや組まれたり
てきぱきと夕刊つくる同僚の顔に崩御の悲しみはなし
社史によれば泣きつつ記事を受けしとふ大正天皇崩御の時は
早朝の地下に響ける輪転機号外夕刊いま刷られゆく
参葬にこだはる英国三日間服喪のキユーバ驚きぬ
[5月号]
一駅も二駅もまだ放牧の柵のみつづく雪の北海道
どこまでも歩けど見えぬ寺の屋根札幌の街ビルのみにして
四五日の天気を見れば大方はあしたに晴れて昼は大雪
家離れ単身生活を慰むるは朝の食事の梅干しの味
外は雪部屋の中ほど暖かく札幌の夜の寮の灯の下
[6月号]
美しき空を歌へる新聞の短歌欄につられ空を見上ぐる
白樺は木叢をなしてひとところ雪の原より生えたる如し
啄木の像もこの日は不遇なり大通公園に居並ぶ雪像
酔客の足もふらふら氷像にネオン映れるススキノ通り
このやうな造作をするうちは平和か自衛隊内に在る雪まつり