歌誌「ハハキギ」作品 ―02― (昭和58年前期 1983)
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[1月号]
楓橋夜泊の詩を吟ずれば彼の地を知らねど霜さへ満ちてくる如
夜勤終へ家路をいそぐ名神のランプの上に三日月浮かぶ
[2月号]
霧の海つづく今朝ゆく沿線は常にあらざる幻のごと
あれこれと煩ひ記すこといらず源泉徴収のわれサラリーマン
[3月号]
一人づつ順に撞きゆく除夜の鐘月に向かひて吾は百八つ目
月かげに鐘楼浮かべ静かなる山の上の寺除夜の更けゆく
劇場の幕は下りしか声交はし老ら出でくる新橋演舞場
供養にと訪ふ人のいくたりか墓を数ふる子らの声する
[4月号]
わが肌に知るより先に衛星はあすの気象を知らしむ何故
歌に酔ひ書をひもとく刻過ぎてサラリーマンの服着て家出づ
[5月号]
その鈍き色を落として街川の岸に繋がる破れ舟二つ
コードにてわが姓名は管理さる命なき数字634378
誇るも誇らぬもなしこの永き職場に勤しみ二十年経つ
[6月号]
邪馬台はいづこに在りや書を読めばまこと知りたき思ひ募り来
紅の卑弥呼に恋する学者らの一途の心知りてあはれむ
邪馬台か邪馬壱国か知らねどもそこに咲きゐし花こそ恋し
