遺伝学的見地からみたヒトの疾患の原因に関する理解が、
これまでよりも明確になると同時に、非常に複雑なものであるとする研究論文が、
「Science」オンライン版に9月5日(印刷版9月7日号)掲載された。
研究著者である米ワシントン大学(シアトル)准教授の
John Stamatoyannopoulos氏は、
「薬剤の標的を特定するためにゲノムをどのように利用するかが大きく変わろうとしている」
と述べている。
これまでは、遺伝子の特定の多様体(バリアント)が
蛋白(たんぱく)の配列に影響を及ぼし、その配列の変化によって
ヒトの健康や疾患の発症が決定されるとの考え方が一般的だった。
そのため、特定の疾患に特異的な遺伝子または
遺伝子多様体を発見することに焦点が当てられていた。
問題は、多くの研究で実際には遺伝子が含まれていない
ヒトゲノム領域が示されていることである。
実は遺伝子が占めるのはヒトゲノムのわずか2%であり、
「残りの98%に隠されているのは遺伝子に
オン・オフの切り替え方を示す命令である」と、
Stamatoyannopoulos氏は説明する。
今回の研究では、成人から採取した349件の組織サンプルを分析し、
400を超える疾患および身長などの身体的特徴に関する
既存の遺伝的データとの相互参照を行った。
その結果、謎に満ちた98%のゲノムの中身について
さらに明確な理解が得られたという。疾患においては、
必ずしも遺伝子そのものが作用するわけではなく、
複数の遺伝子のネットワークが共に作用していると考えられ、
このような「スイッチ」すなわち「制御」DNAが
ネットワーク全体を統率していることが明らかにされたと、同氏は述べている。
付随論説の著者の1人である米マウント・サイナイ医科大学(ニューヨーク)
遺伝学・ゲノム科学部長のEric Schadt氏は、
「疾患に関連するDNA多様体の多くは、
蛋白の配列に直接影響を及ぼすわけではなく、
遺伝子が発現するかしないか、どの程度まで発現するかを制御する
DNA領域に影響を及ぼしている」と、説明している。
研究対象とした疾患の4分の3に制御DNAとの関連がみられ、
その異常の多くが胎内ですでに作用していた。
研究グループはこのほか、クローン病と狼瘡(ろうそう)など、
まったく異なるようにみえる疾患の多くが、
実は同じ制御遺伝子の一部を共有している可能性があると指摘している。
この新しい情報により
「どの疾患があるかだけでなく、どのような亜型(サブタイプ)か、
どの経路が影響を受けているか、どの治療で最も
ベネフィットがあるかなどがわかるようになる。
これにより、個別化医療的なアプローチも可能になると考えられる」と、
Schadt氏は述べている