香水を、変えた。
匂いというものがどれ程
人の感覚に訴えるものなのか、
分かっていて、変えた。

それまで愛用していた、
トップからラストまで大差無い甘さの香りは
何処へやら、
今度は鋭ささえ感じられる敏感な香り。

その香りを見つけるまで、
沢山のお店で沢山のテスターを振った。
鼻が麻痺するまで匂いを嗅いで、
それでも頷くものは無かったのに。
なのにそれは、一瞬にして私の鼻を納得させた。

"euphoria"。
メンズの香水だし別段珍しいものではないから、
街を歩けばきっと、
同じ香りに足を止めることもあると思う。
それなのに敢えてこの香りを選んだのは、
私に足りないものを求めたのか―――。

鋭敏、冷艶、理知。

私にとってはそんなイメージを受けるから、
どこをどうしても"幸福感"の名前とは結びつかない。
そんな矛盾を感じながら纏うこの香りは、
私を既述のイメージへと導くのだろうか。
いや、寧ろそんなイメージを抱かされることで、
私自身そういった類の心構えへと
向かうのかも知れないな。

人は五感で感じ取ったものを
付加の情報として考えることがある。
白やピンク色の服を着ている少女を
"女の子らしい"と感じたり、
体臭に気遣わない人間を
だらしないのではないかと感じたり…。

しかし得てしてそれは、
必ずしもイメージだけではなく、
理屈として繋がっていることもある。
もしも道行く人がこの香りに私と同じ
イメージを持ったのなら、私は棘の有りそうな、
鋭い人間に思えるのだろう。

そのくらいで、いい。
今は、私の中で鈍ってしまった
斜に構えた生意気さや、
自信に満ちた表情を呼び起こしたいから。