その想像が頭を過った瞬間から、世界は暗黒に包まれた。心臓は早金を打ち、喉は乾き、足の力は抜けた。
朝帰り……そうだ。きっと会合の後で、誰か男と会ったのだ。59歳とはいえ、あの美貌。男が放っておくわけがない。
50歳のおれから見ても魅力的なのだ。60歳以上の男性から見れば、申し分ないはず。パトロンがいてもおかしくない。いや、いない方がおかしいのだ!
友美さんが頭の禿げ上がったオヤジに抱かれる姿が、瞬時に脳裏を過った。
「友美さん、どうして!!」
わたしはやり場のない、怒りとも悲しみともつかない感情に覆い尽くされた。
ホワイトデーのあの日「一緒になってあげる」と言われた時から、ずっと想い続けてきたのに、あんまりじゃないか……。
純情な男の心をもてあそぶな! もう、おれに一切構わないでくれ!
ここまで怒涛の如くに思考が渦巻いたが、わたしはハッとした。
「ああ、別に友美さんは、おれのことなんて何とも思っちゃいない。全部、おれのひとり相撲だったんだ……」
わたしは、あまりにも自己中心な思考に気づき、脱力した。だが、やり場を失ったわたしの心は、錨の切れた船のように、あてどもなく周囲を漂い続けていた……。
(つづく)