未知なる心へ

統一教会入信から脱会までの日々と、脱会後の魂の彷徨。


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彼は海を眺めながら、彼女のことを想い、色々と自分の気持ちを整理していたが、疲れをおぼえてきたので、車のシートを倒して横になった。


徐々に日が昇り、輝く太陽の光が彼の顔を射した。彼はハンカチを顔に被せて休んでいたが、さっきから感じていた軽い頭痛が、横になっても収まらずに、徐々に強くなっていくのを不快に思った。すると今度は、急に胸のあたりがムカムカしてきた。
 

ムカつきは収まらず、我慢できなくなった彼は車を降りて、ロードパークのトイレに駆け込むと、便座の前にしゃがみこんで吐いた。公衆便所なので便器は薄汚れていたが、そんなことを気にする余裕もなかった。彼は吐くだけ吐いて、胃の中が空っぽになると、脂汗をかきながらよろよろと立ちあがり、再び車に戻った。

車のシートにぐったりと体を横たえながら、彼は思った。


「人間の命なんて、はかないものだ。健康で元気な時はそれが当たり前だと思っているが、いったん体調を崩してしまえば、もう何もできないし、気力も湧かない。そうしていつかは、ろうそくの灯が消えていくように、おれも死んでいくのだ」

 

「そうだ、人間の命は短く、儚い。ならばおれは、自分の思いを貫くべきだ。命があるうちに、おれは、おれの好きな人に逢いに行こう。思いを伝えよう。結果が問題じゃないんだ。どうせ死んでいく命。おれは夏の終わりに鳴く蝉のように、おれの思いを叫んで、伝えよう」

彼は激しい頭痛に耐えながら、そんなことを考えた。しかし、それを即座に実行できるわけでもなかった。
 

たしかに、これは、彼の想いの世界では真実だった。だが、現実の世界には様々な制約がある。彼は家庭を壊したくはなかったが、その一方で、彼女を慕う気持ちも捨てがたかった。

「おれはいま、体調不良で苦しんでいる。でも、家に辿りつければ、妻が面倒を見てくれる。だが、彼女はどうだ? もし彼女が体調を壊して寝込んだら、誰が世話をするのだろう。でも、遠方にいるおれは何の力にもなれない。いくら彼女のことを想っても、結局はただの妄想だ・・・」

彼は深いため息をつくと、シートを起こして、海岸沿いの国道を走りだした。

 

やがて、岬の突端に、ピンク色で5階建てくらいの、真新しいマンション風の建物が見えた。信号待ちの間に看板を確かめると、「特別養護老人ホーム ○○苑 入居者募集中」 と書いてあった。
 

「そうだ! もし、彼女が結婚しないまま齢をとったら、おれは彼女と同じ老人ホームに入居しよう。そうすれば、おれは何の気兼ねもなく、毎日彼女と顔を合わせることができる。お互いに支え合いながら、晩年を共に過ごすことができるだろう」

家に着くと彼は蒲団に倒れ込んで、さっきの老人ホームのことを考えた。

 

一緒に入居するというのは、たしかに名案には違いない。だが、お互い爺と婆になってからのことだ。果たして、そんなことに何の意味があるだろうか?


外では蝉がけたたましい声をあげて鳴いていた。終わりゆく夏を前にして、最後の命を振り絞っているのだ。自分の命が尽きる前にメスと出会い、自分の生命を後世に伝えていくために・・・。
 

彼の心もいつしか、遥か彼方の地に飛んでいた。約500km、車で7時間くらいだろうか? いつか、必ず行こう・・・。彼の心はすでに車に乗って、ひたすら北に向かうハイウェイを疾走していた。


(誕生プレゼント・完)

 

 

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