菊本と社長(会社)への悪口を延々と書いてきたが、読まれる方もいいかげん飽き飽きしてきただろうし、私にとっても、こんな文章を書き続けることは精神衛生上よくないので、ここらで一気に結末へと突っ走ろうと思う。
会社への未練がなくなった私は、早速、職探しに奔走した。営業職だったので、仕事の合間をぬってハローワークにも通った。すると運よく、私が以前に関わっていた仕事の求人が見つかったので早速応募し、書類選考と面接を済ませた。そして最終の結果を待っている時に、販売会議があった。
私はすでに退職を決意していたので、できれば会議などキャンセルしたかったが、会社とのごたごたは避けたかったので結局参加を決めた。だが、この時の会議はどことなく不穏な空気があった。私と菊本の関係が上手くいっていないという噂がすでに広まっており、真っ先にそのことが槍玉にあげられたのである。
会議の冒頭から社長が言った。 「最近B店の売上げが落ちているが、菊本店長と営業のN君との連携がうまく取れていないところに原因があるようだ。特にN君が菊本に不満があるらしい。だからこれから、その不満を皆の前で述べてもらおうと思う。その上で、どうしたらそれを解決していけるのか、皆で意見を出し合おう」
「ついに来たか!」 と思った。例の吊るし上げだ。だが、会社を辞める腹積もりの私にとっては逆に好都合だった。吊るし上げられれば、それを理由に辞職の意志も伝えやすくなる。
だが、そんな計算の反面、私の中ではどす黒い怒りの炎も燃え上がった。それは激しいものというよりは、静かな悲しみを帯びた怒りであった。自分の思いががまったく理解されないことの悲しみと、菊本のような邪悪な存在がうまく上司に取り入って、思い通りに事を運んでいく現実への絶望と苛立たしさだった。
こんな時、昔の私だったら、感情に任せて激しい言葉をぶちまけたかもしれない。だが、そうした場合、結局は自分の立場が更に悪くなるということを、これまでにも何度か経験済みだった。どうせ、もうすぐこの職場とおさらばするのならば、事を荒立てるのもばからしい。
実際、私は菊本のやり方に心底、反発して嫌ってはいたものの、かといって、自分が絶対的に正しいという確信もなかった。もしかしたら、菊本の方が(一般的には)正しくて、逆に自分が非常識なのかもしれない・・・という思いもあった。(生来の自信のなさである・・・)
それに、菊本に対しては初対面から生理的な嫌悪感をおぼえていたが、そんなことを皆の前で声を大にして言えるはずもない。人間的には嫌いでも、仕事だからと割り切って我慢している人は沢山いるのだ。
だから、私は菊本への不満を洗いざらいぶちまけることはしなかった。もし、この会社でこれからも頑張るつもりだったら、今の状況を何とかしようと思ったかもしれないが、私の気持ちはすでに会社から離れている。そんな会社のために注ぐエネルギーなどなかった。
それに、私がここで散々がなり立てて言い分を通したら、それこそ 「辞めます」 とは言いづらくなる。私は議論で菊本を打ち負かすことよりも、この 「吊るし上げ」 を退職のきっかけとしてうまく利用する方を選んだ。
