私の祖母は、性格がきつい上に自己中心的だったので、母は嫁として大変な苦労をしてきた。だから、姉がある程度大きくなってくると、よく姉と一緒に祖母のことを愚痴っていた。
私は中学生くらいになると、延々と祖母の愚痴をこぼす母を見て、「そんなに嫌なら、なんで無理して同居しているんだ」 と、よく思ったものだった。だから、自分は長男であっても、決して親とは同居すまいと心に決めていた。
自分も祖母とはよく喧嘩したし、そういう家族間のいがみ合いを年がら年中目にしていれば、そう考えるのは当たり前だった。だが母は、私がまだ小学生の頃から、祖母のことを愚痴ったあとで、よくこんなことを言った。
「お前のお嫁さんのことは、絶対に優しくするからね!」
しかし私は、そんなことを言われても全然嬉しくなかった。それどころか、将来同居することを暗に強いられているような気がして、逆に嫌な気分になった。
「いや、おれはお母さんと暮らすつもりはないから。同居したって、こんな言い争いばっかりだったら、何も良いことなんてないだろ?」 私はさすがに口には出さなかったが、いつも心の中では、そんなことを思っていた。
もっとも、今の時代、結婚の最初から親と同居する人は滅多にいないだろう(でも、それが出来る女性は凄いと思う。私の知る範囲では、そういう女性は皆、性格が良い)。だから私も、実家から車で20分くらいのところにアパートを借りて、そこで新婚生活をスタートさせた。
もちろん、たまには妻を連れて実家に顔を出した。妻は元々、そんなに口数が多いほうではないし、決して気が利くタイプでもなかったが、それでも母とはそれなりにやっていた。もちろん、嫁と姑の関係だから、多少はチクリと言われることもあったようだが、それほど険悪な雰囲気にまでは至らなかった。だから、私が目に付いた母の短所とは、嫁いびりとはまた違う。
それよりも、私が実家に戻ってから、改めて思ったのが、母の「思ったことをあまり言わない」 という性分だった。それは私が中高生だった頃にも、うすうすは感じていたものだったが、その性質が、明らかに自分の中にも受け継がれていると気づいた時、ままにならない己自身への苛立ちが、その源泉ともいえる母に対しても向かっていったのである。
(つづく)