ノマドの森から - from the Nomadic Woods - -16ページ目

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -

移動を続けるノマドの森から届く不定期郵便

果てし無い青空。
エメラルド色の海。
真っ白に輝く砂浜。
背中を焦がす太陽。

終わりの見えなかった雨季をどうにか大股で乗り越え、
この季節が遂にやって来た。

鳴り止まない蝉の声。
清流が紡ぎ出す重奏曲。
岩肌に仰向けになって空を見上げると、
流れる雲の間を空が一気に突き抜ける。

夕方になると、浜のすぐ脇にテントを張った。
西日に焼かれた砂がじりじりと熱い。
この季節の到来を足の底から受け入れる。

次第に太陽は傾き始め、
紺碧の水平線に近付いていく。
海が、浜が、そびえる山々が、
全てが紅く染まっていく。
そして、夜の色へと移り変わる様に息を呑む。

見上げれば満天の星空。
数え切れない星達と、
誰にも気付かれずに消えていった星達の間を、
ただぼんやりと、天の川が縦に流れる。

ようやく寝静まった頃には、
浜を這う生き物の息使いが聞こえてくる。
数匹の海亀がテントのすぐ脇の浜で産卵を始める。
星明りの夜の下では、また別の物語が始まっている。


鮮やかで印象深い数々の色に染め上げられ、
屋久島はまた、新しい季節の到来を告げる。

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
四ツ瀬浜

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
永田岳と永田集落

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
前浜

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
海の向こうの口永良部島

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
夕暮れ
こんなにも長く、そして激しい雨の季節を経験するのは人生において初めてのことだ。
この梅雨がいつ始まったのかもよく分からないし、終わる気もしなくなってきた。
「梅雨もあと1週間くらいかな。」
なんてゆう言葉を色々なところで耳にする。半月程前からだ。

屋久島全体から水が溢れ出している。
島の地層の殆どを占めている花崗岩は水分を保持することが出来ず、
清らかな川の風景も物凄い勢いの濁流に流されている。

窓の外の杉林に永遠の奥行を感じる。
どこまでも続く、果てしない深緑。
外の世界との繋がりを忘れることもある。
森の中に取り残された一軒家。
屋根打つ雨音に全てを遮られ、ただひたすらの孤独が生まれる。

あまりの豪雨ではさすがに出漁は無いが、
朝5時の段階でそうでなければ、沖に船を出す。

突然の暴風豪雨に襲われる。
東西南北を濃い霧に覆われる。
雨に打たれ幾何学的な模様で波打つ海。
頭の中にある難破船のイメージと一致する。
「網上げのトラブルで船が岸に打ち上げられる可能性があるから、今日は引き返そう。」
漁労長はなかなかシビアな発言をしている。


梅雨もあと1週間くらいではないだろうか。
そんな希望的観測ですら口に出したくなるほどの長く激しい雨の季節。



両足を縛り、木に逆さ吊りにする。
ある程度時間を置くことで、頭の方に血が集中する。
そこで木から下ろし、首を絞め、そこに鉈を振り下ろす。
首は胴体から切り離され、それでも胴体は必死にもがく。
時間が経つと、もうその体は命を持たない、肉の塊だ。
体から羽根をむしり取り、内臓を取り出し、肉を切り分けていく。
本当にあっという間だ。生命は食料に変わった。

雉を捌いた。
屋久島中が停電した、大雨の日の出来事だった。

毎日、沢山の生命が首をはねられ、肉の塊に変えられ、
部位別に切り取られ、綺麗に切り揃えられ、
スチロールトレイの上に等間隔に並べられ、
皺一つ無い透明フィルムでラップされ、
白色蛍光灯に照らされた清潔な陳列棚に並べられる。

その既に商品となった肉の塊を手にすることには、なんの罪意識も感じない。
動物を食べていることすら、忘れてしまうこともある。
僕らが生きていく為の食料は、
誰かの手で首を落とされた動物だということを。

感謝して雉の命を頂いた。