遂にここまでやって来た。
目の前に広がる水平線が、
今までに見たこともないくらいに淡く輝いている。
どこまでも広い空。
空と僕との間には、邪魔な物は何一つ無い。
屋久島から遠く南へおよそ400km。
同じ鹿児島県内の離島とはいえ、
島のまとう空気感はまるで別物だ。
与論(ヨロン)島という不思議な響きをもつこの島は、
沖縄本島とは目と鼻の先。
島の高台からは沖縄本島がはっきりと見える。
海はこれまでのどの島よりも透き通り、
浜辺からは見渡す限りの水色の世界が広がっている。
本当に暑い。
立っているだけで眩暈がするほどの激しい日差し。
屋久島のそれと比べても遥かに鋭い。
紫外線を避ける為、長袖を着ている人も多い。
日陰に入ってしまえば不快な暑さはまるで無い。
風が気持ち良く吹き抜ける。
陰と陽の間には扉があるような世界だ。
小学校の帰り道、陰からでたら死ぬというようなゲームがあったが、
それを地で行くような世界だ。
海に浮かんで空を見上げた。
屋久島をずっと遠くに感じた。
今回の船旅の最終地点に辿り着いたことに、
充実感を覚えた。
ここより南へは行かない、今回は。
未だ見ぬ世界を想像すること、
それこそが生きる喜びだ。
大金久海岸のキャンプ場で5日間を過ごした。
その間ここにテントを貼ったのは、僕ら以外に誰もいない。
海岸に降りると、水色の海の上に白砂の島が見える。
干潮時のみに現れる、百合ヶ浜という砂浜だ。
どの海岸にも、人は本当に少ない。
誰一人として現れないことも多い。
海はただ、綺麗にたたずむ。
沖に小さく見えるヨット。
景色は動かず、油絵のように見える。
今から30年も前、与論島ブームが起り、
島は観光客で溢れ返っていたようだ。
市街地の海岸線にはギリシャ、エーゲ海を模した風景が見える。
バブル経済に包まれた当時の日本人は、
日本中、世界中を旅行して回った。
沖縄が返還されるまで日本最南端であったこの島も、
都会の若者達で賑わっていたようだ。
道沿いに立ち並ぶ廃墟を横目に、
サトウキビ畑を抜けてバイクで走る。
時間の止まってしまったこの島の空の上を、
ゆっくりと雲が流れて行く。
8月25日、与論島を離れる。
旅が始まってから約1ヶ月、
色々な島を巡って南下を続けて来た。
海はどこまでも続いている。
この先には沖縄、さらには台湾、中国があるのだ。
世界は果てし無い。
限りというものが無い。
南へ南へと行き続ければ、
いつかはきっと出発点よりも北に辿り着くのだろう。
西へ西へと旅を続ければ、
いつかはきっと、東の大地に辿り着くのだろう。
だが今は、屋久島に帰ろう。
あの山が、あの家が、沢山の友人達が、
家で飼っている2匹の猫たちが、
あの川が、あの冷たくて底の見えない深く美しい川が、
あの慣れ親しんだ砂浜が、
僕をまた、迎え入れてくれる。
僕は屋久島が好きだ。
色々な島を見て回ったが、やっぱり屋久島が好きだ。
26年間のうちのたったの2年間だが、
この島は僕に沢山の経験と友人を与えてくれた。
そして今も与え続けてくれている。
今年の11月、僕は実に2年振りに地元群馬の土をまた踏むことが出来た。
僅か1週間だったが、沢山の友人に会い、真面目な話を、くだらない話を、
他愛も無い話を、延々と話すことが出来た。
僕が中学生の頃初めてバンドを組み、
それから5年間、僕の後ろで凄まじいドラムを叩き続けてくれた友人が結婚した。
そして、遠く屋久島にいる僕を結婚式に招待してくれた。
とても嬉しかった。
もう何年も会っていなかったが、
お互い姿格好は少しは変わったし少し老けたが、
考え方や物の見方は少し大人びたかもしれないが、
根底にあるものは何も変わらない。
同じバイト先の厨房で油まみれになりながら資金を稼ぎ、
群馬、栃木、埼玉、東京、沢山のライブハウスや野外ステージで演奏し、
凄いバンドを見れば共に鳥肌を立てた仲間だ。
僕はその後アメリカへ、彼は東京へ、
それぞれの道を今まで歩いてきたが、何も変わらない地元の仲間だ。
家庭をもって父となっても、それは変わらないのだろう。
明日は大晦日だ。2010年も残り僅か。
今年も僕は、屋久島で年を越えることが出来そうだ。
明日になれば、僕は永田の友人を訪ね、
明日誕生日を迎えるその友人の娘に、絵本をプレゼントするつもりだ。
アメリカに住む友人から譲り受けた絵本を自分で翻訳した。
昨年中に2冊の絵本を翻訳して子どもたちに渡し、とても喜んでもらえた。
ボロボロになるまで楽しんでくれた。
自分に出来る範囲で一つでも笑顔が増えれば、
僕にとってそれは、かけがえの無い感動だ。
明後日になればきっと、2011年という真新しい年が始まるのだろう。
またきっと、新しい何かが待っているのだろう。
またきっと、新しい出会いが、感動が、喜びが、悲しみが、
僕を待っているのだろう。
あと1日、2010年を大いに楽しみ、
そしてまた新しい年をこの体一杯に使って迎え入れよう。
与論の海
サトウキビ畑
原付と道路
漁港
火を焚く