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ノマドの森から - from the Nomadic Woods -

移動を続けるノマドの森から届く不定期郵便

屋久島は、長い長い冬眠からようやく目覚めた。
今年の冬は本当に長かった。
夏のうだる暑さを忘れるには十分過ぎる程長い冬だった。
船行の庭に雪が積もるのも初めて見た。
船上では冷たい風が常時吹き荒れていた。
屋久島に来て初めて手が霜焼けになった。
外に出れないような天気が続き、ひたすら家の中に閉じこもった。

去年の十月頃に取り掛かった囲炉裏製作が、ようやく完成を見た。
もともと半分以上床が無い状態だったこの家も、
ようやく八割は床が貼られた。
家の壁が無かった部分にも壁を施し、
家が家らしい格好になった。

去年の夏、川で大きめで平らな石を広い集め、
それを基礎石として使った。
床材は全て薪として使っている杉の端材の中から
床板に使えそうなものを寄り集めた。
出来る限り資材を買わないことを心がけた。
こうして一部屋作ってみると、全くの素人でも
やる気と時間があればなんとか出来ると実感した。

友人が魚や野菜を持って来れば、
囲炉裏に火をくべ、鍋をはじめる。
火と共に暮らす生活は、暖かく穏やかだ。

ようやく晴れた日が続くようになったので、
春夏の野菜を植えはじめた。
ススキ野原で無数の根をスコップで一つずつ掘り起こし、
畑のスペースを確保した。
根気のいる作業だったが、ここの生活でそれにも慣れてきた。

飛魚漁も約一ヶ月遅れの最盛期を迎え、
年間を通して一番忙しい時期に入った。
毎日毎日大漁が続く。
飛魚を獲り、飛魚を食べ、飛魚で収入を得る。
感謝極まりない。

締め切ったままだった窓という窓を一気に開放し、
家の中を春色に染める。

今度は冬の厳しい寒さを忘れさせてくれるような、
暑い夏が待っているに違いない。


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束石並べ

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骨組み作り

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囲炉裏の位置決め

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煉瓦で囲いを作る


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砂利を敷き詰め、セメントを盛る

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囲炉裏部分の完成

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部屋と囲炉裏の形に沿って合板を敷き詰める

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幅も厚みもバラバラの床板をパズルのように組み合わせる


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囲炉裏部屋完成
遂にここまでやって来た。
目の前に広がる水平線が、
今までに見たこともないくらいに淡く輝いている。
どこまでも広い空。
空と僕との間には、邪魔な物は何一つ無い。

屋久島から遠く南へおよそ400km。
同じ鹿児島県内の離島とはいえ、
島のまとう空気感はまるで別物だ。

与論(ヨロン)島という不思議な響きをもつこの島は、
沖縄本島とは目と鼻の先。
島の高台からは沖縄本島がはっきりと見える。
海はこれまでのどの島よりも透き通り、
浜辺からは見渡す限りの水色の世界が広がっている。

本当に暑い。
立っているだけで眩暈がするほどの激しい日差し。
屋久島のそれと比べても遥かに鋭い。
紫外線を避ける為、長袖を着ている人も多い。

日陰に入ってしまえば不快な暑さはまるで無い。
風が気持ち良く吹き抜ける。
陰と陽の間には扉があるような世界だ。
小学校の帰り道、陰からでたら死ぬというようなゲームがあったが、
それを地で行くような世界だ。

海に浮かんで空を見上げた。
屋久島をずっと遠くに感じた。
今回の船旅の最終地点に辿り着いたことに、
充実感を覚えた。
ここより南へは行かない、今回は。

未だ見ぬ世界を想像すること、
それこそが生きる喜びだ。

大金久海岸のキャンプ場で5日間を過ごした。
その間ここにテントを貼ったのは、僕ら以外に誰もいない。

海岸に降りると、水色の海の上に白砂の島が見える。
干潮時のみに現れる、百合ヶ浜という砂浜だ。
どの海岸にも、人は本当に少ない。
誰一人として現れないことも多い。
海はただ、綺麗にたたずむ。
沖に小さく見えるヨット。
景色は動かず、油絵のように見える。

今から30年も前、与論島ブームが起り、
島は観光客で溢れ返っていたようだ。
市街地の海岸線にはギリシャ、エーゲ海を模した風景が見える。
バブル経済に包まれた当時の日本人は、
日本中、世界中を旅行して回った。
沖縄が返還されるまで日本最南端であったこの島も、
都会の若者達で賑わっていたようだ。

道沿いに立ち並ぶ廃墟を横目に、
サトウキビ畑を抜けてバイクで走る。
時間の止まってしまったこの島の空の上を、
ゆっくりと雲が流れて行く。

8月25日、与論島を離れる。
旅が始まってから約1ヶ月、
色々な島を巡って南下を続けて来た。
海はどこまでも続いている。
この先には沖縄、さらには台湾、中国があるのだ。

世界は果てし無い。
限りというものが無い。
南へ南へと行き続ければ、
いつかはきっと出発点よりも北に辿り着くのだろう。
西へ西へと旅を続ければ、
いつかはきっと、東の大地に辿り着くのだろう。

だが今は、屋久島に帰ろう。
あの山が、あの家が、沢山の友人達が、
家で飼っている2匹の猫たちが、
あの川が、あの冷たくて底の見えない深く美しい川が、
あの慣れ親しんだ砂浜が、
僕をまた、迎え入れてくれる。

僕は屋久島が好きだ。
色々な島を見て回ったが、やっぱり屋久島が好きだ。
26年間のうちのたったの2年間だが、
この島は僕に沢山の経験と友人を与えてくれた。
そして今も与え続けてくれている。


今年の11月、僕は実に2年振りに地元群馬の土をまた踏むことが出来た。
僅か1週間だったが、沢山の友人に会い、真面目な話を、くだらない話を、
他愛も無い話を、延々と話すことが出来た。
僕が中学生の頃初めてバンドを組み、
それから5年間、僕の後ろで凄まじいドラムを叩き続けてくれた友人が結婚した。
そして、遠く屋久島にいる僕を結婚式に招待してくれた。
とても嬉しかった。

もう何年も会っていなかったが、
お互い姿格好は少しは変わったし少し老けたが、
考え方や物の見方は少し大人びたかもしれないが、
根底にあるものは何も変わらない。
同じバイト先の厨房で油まみれになりながら資金を稼ぎ、
群馬、栃木、埼玉、東京、沢山のライブハウスや野外ステージで演奏し、
凄いバンドを見れば共に鳥肌を立てた仲間だ。
僕はその後アメリカへ、彼は東京へ、
それぞれの道を今まで歩いてきたが、何も変わらない地元の仲間だ。
家庭をもって父となっても、それは変わらないのだろう。


明日は大晦日だ。2010年も残り僅か。
今年も僕は、屋久島で年を越えることが出来そうだ。

明日になれば、僕は永田の友人を訪ね、
明日誕生日を迎えるその友人の娘に、絵本をプレゼントするつもりだ。
アメリカに住む友人から譲り受けた絵本を自分で翻訳した。
昨年中に2冊の絵本を翻訳して子どもたちに渡し、とても喜んでもらえた。
ボロボロになるまで楽しんでくれた。
自分に出来る範囲で一つでも笑顔が増えれば、
僕にとってそれは、かけがえの無い感動だ。

明後日になればきっと、2011年という真新しい年が始まるのだろう。
またきっと、新しい何かが待っているのだろう。
またきっと、新しい出会いが、感動が、喜びが、悲しみが、
僕を待っているのだろう。

あと1日、2010年を大いに楽しみ、
そしてまた新しい年をこの体一杯に使って迎え入れよう。


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与論の海

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サトウキビ畑

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原付と道路

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漁港

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火を焚く
奄美大島古仁屋の港からフェリーで僅か二十分。
そこは、神々に守られた、穏やかな島だった。
たった三日程度過ごしただけでその島を語るには不十分過ぎるが、
そこには明らかに、神々の息吹を感じられた。

加計呂麻(カケロマ)島。
名前の響きを聞いただけでも神秘的である。

僕らがまず訪れたのは島の最北部、実久集落。
本当に綺麗で、穏やかな海岸が広がっていた。
海岸沿いに広がる集落には、異国文化が感じられた。
ここも琉球文化圏なのだ。
日本という括りに入れるには雰囲気が異様だと思う。

一人一匹ずつ魚を釣り、火をおこし、焼いて食べる。
本当の幸福感を味わう。

諸鈍(ショドン)集落。
ここでは小さい商店に立ち寄った。
地元のおばさんが世間話をしている。
全く分からない言語で会話している。
ここは外国だ。
デイゴ並木が立ち並ぶ。
絵に描いたような異国情緒。

渡連(ドレン)ではパン屋を訪ねた。
島に移住して来た夫妻が始めた天然酵母のパン屋だ。
おいしかった。
やはり天然酵母からのパンには愛情を感じる。

こんな穏やかな島でも、戦時中は日本軍が基地を構えていたようだ。
人は何故、こんな穏やかな島をも戦場に変えてしまうのだろう。

西阿室(ニシアムロ)集落では一人の若い旅人に出会った。
大雨に打たれ、ちょっとした屋根の下で休んでいた時、
彼も雨宿りに参加してきた。
彼はニ年以上も旅を続け、一年ぶりにここ加計呂麻島に帰ってきたそうだ。
お互いの旅の話を語りあった。
僕が今屋久島に住んでいることを告げると、
彼も屋久島に来る予定があったらしく。
屋久島の地でまた再会することを誓った。
そして彼とはまた屋久島で再会した。
そして船行の我が家で呑み、また語り会うことが出来た。

僕は、一つ一つの出会いに感謝している。
またいつか語りあうことを約束し、
お互いの道を歩き始めた。

加計呂麻島。
沢山の人との出会いに感謝し、
僕らはまた足を進める。

与論島。
この旅もついに最後の目的地を残すのみとなった。
次なる島でもまた、見たこともない風景に出会うこととなる。


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加計呂麻島地図

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実久海岸から奄美大島を望む

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実久集落の珊瑚礁の石垣

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アカブダイの塩焼き

ノマドの森から - from the Nomadic Woods -
日本軍基地跡

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諸鈍のデイゴ並木

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天然酵母パン屋(渡連集落)

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テント設営(西阿室港)

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加計炉麻島を望む