若者は幼い頃から、遥か彼方に輝いている“白い神の山に心惹かれていた。
長ずるにつれて、その思いはますます強くなっていった。
 
若者の部落には“神の剣二振りが守護神として祀られており、それにまつわるいい伝えは長老から何度も聞いていた。
 
朝に夕に、人々は神殿に参拝して守護神にお祈りしていたが、若者はその“神の剣”を目にする度に、何かしら懐かしいような不思議な気持ちになるのであった。
 
そしてある日突然、若者の記憶の底に何かが呼び起こされた。
 
若者は夜になってみんなが寝静まってから、神殿に忍んでいった。
そして、そこに祀られてあった二振りの“神の剣"を手に取ってしばらく見つめ、撫でさすっていたが、やがてそれを肩に担いで外に出た。
 
その時、若者は神殿の側に奇妙な姿の男が倒れているのを見かけた。
若者はその男の姿にたまらなく感動を覚えたが、それが何故なのかはわからなかった。
 
若者はしばらくそこに立って神殿の周りに灯されている灯明の光でその男を見下ろしていたが、その顔は池に映った自分の顔に似ているような気がした。
そして何だか遠い、懐かしいふるさとのようなものを感じた。
 
再び若者は歩き始めた。
 
山を越え谷を渡り、休まず歩いた。
若者は手ごろな大きさの枝を石のナイフで切って杖を作り、険しい山坂を登った。

 どれくらいの時が? いや日にちが経っただろうか?
若者はようやく“白い神の山"の麓に着いた。
そこから先は雪の斜面が続いている。
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                                                                         Photographed by Keiichi Ozaki

者は何かに導かれるように“神の剣から黒い塊を取り外し、それを足に履いてピカピカ光るもので締めつけてから、“神の剣"に装着した。
そして雪の上をゆっくりゆっくり登って行った。
 
夜が明けて、村人たちは神殿の側に倒れている奇妙な姿の男を見つけ、長老の家へ運び込んだ。
男はこんこんと眠り続けていた。
 
それから“神の剣"が消えていることもわかって、部落は上を下への大騒ぎとなった。
すぐにひとりの若者が姿をくらましていることも判明し、男たちはいくつかのグループに分かれて、四方八方へ“神の剣"を捜しに出かけた。

若者は遂に“白い神の山"の頂に立った。
若者の心は感動に打ち震えていた。
そして谷底に向かって、”神の剣”を足につけた身をサッと躍らせた。

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                                                                        Photographed by Keiichi Ozaki
目くるめくような快感が全身を襲った。
時が渦を巻いて流れ去り、若者はその流れのままに身を任せた……(つづく)