「あっ、オレのスキー! どうして? ……ちょっと待ってくれ! 誰?……行かないで……」
しゃべろうにもことばにならない。
彼は忘れもしない自分のスキーを担いだ男を見上げていた。
ゴワゴワした毛皮のような衣類をまとった、異様な風態の若者……
ゾクゾクと魂を揺すぶられるような不思議な感情。
何故なのか? いつかどこかで……夢の中で見たような……
〈それに、似ている。オレの顔に何だか……身動きできない。クソッ、もどかしい……〉
「ウワァ!~」
凄まじい悲鳴のような響きで彼は目覚めた。
粗末な小屋の中のワラのベッドに彼は横たわっていた。
周りには誰もいなかった。
起き上がって外に出てみた。
薄暗い。
夕方か?
太陽は中天にあった。
だが、それは欠けていた。
広場には人々が寄り集まって地にひれ伏していた。
〈日食だな。今度はかなり時代をさかのぼったようだぞ。それにしても、さっきの若者は?…… あれは夢だったのか?……〉
彼は早く彼自身の世界に戻りたかった。
そこで、再び“メビウスのポーズ"を取った……

恐る恐る“神の白い山”に近づいた村人の一隊は、若者がふたつの翼をつけて空を飛ぶのを遠望した。
その直後、太陽が欠けて空は暗くなった。
村人は恐れおののいてブルブル震えながらひれ伏していたが、やがて太陽が元の形に戻り、あたりが明るくなってきたので気を取り戻した。
しかし、明るくなっても、若者の姿は二度と見られなかった。
彼らは疲れ果てて部落に帰り着き、長老にすべてを報告した。
「いい伝えによると、昔、神が我らに剣を下さった時も、世界は暗くなった、という。
今、再び世界は暗くなった。神が天に帰られたのだ。
あの若者は神だった。そして、突然消えたあの異形の人も。
あのふたりは兄弟の神で、兄神が弟神を迎えに来られたのだ……」
長老は村人たちにそう語った。(つづく)