天狗様の生活は佐助にとって物珍しいことだらけだった。
 
朝起きたら先ず、牛が3頭、にわとりが10羽飼われている家畜小屋へ行って、掃除、乳搾り、卵集め。それから朝ごはんになる。
 
搾りたての乳――初めての夜に飲まされたのがこれであったが、そのうちすっかり慣れておいしいと思うようになっていた。
卵料理――天狗様は実にいろいろな方法で料理してくれる。
“ぶれっど”という、米の粉で作った蒸しまんじゅう。牛の乳から作ったという“ばたあ”と“ちいず”。そして木の実から作った甘酸っぱい“じゃむ”が朝ごはんである。
昼や夜にはこの他に燻製の肉や干し魚、煮込み汁などが出る。
 
天狗様は時々、罠を仕かけたり、弓矢を持ち長い下駄を履いて狩りに出かけたりして、うさぎやきつねなどを仕留めてきた。
そんな日の晩ごはんは、おいしい焼肉であった。
残った肉は燻製にして貯え、毛皮はなめして着るものや敷物などになった。
 
天狗様との奇妙な生活が続き、また冬がめぐってきた。
そして雪が降り始めた頃、天狗様は佐助のために長い下駄を作ってくれた。
毛皮で作った堅い足袋を履いて、それに革ひもで下駄を縛りつけると、深い雪の上をあまり潜らずに歩ける。
坂のあるところでは物凄い速さで滑るので、佐助ははじめのうちは目をまわした。
 
これは“すきい”というものだそうである。
天気のいい日には小屋の後の斜面で、天狗様はこの“すきい”の術を教えてくれた。
 
佐助はすっかりその楽しさにとりつかれ、雪が解け去る頃までには天狗様と同じくらいに滑れるようになっていた。
 
“もう一人前の天狗だぞ”と鼻高々の態であったが、佐助の鼻は天狗様のように大きくはならなかった。(つづく)