
辛子色の作務衣の上に、朱色の陣羽織を着、同色のショールを纏い、足元は銀と青色の品の良い草履を履き、颯爽とレッスンに来てくださる92歳の生徒さん。
聞けば、作務衣は着物を、陣羽織は帯を仕立て直したものだと仰る。
『素敵ですね』と声をかけると、
『いざ、出陣じゃ』
と言いながら、刀で切る真似をされる
ほとんど休憩を入れずレッスンが進むのですが、渡してある課題を言われた通りに練習してくるだけでなく、自分で新しい練習方法を考案して、それも毎日練習しています、と仰る。
歌舞伎の演目、『外郎売』は、最初から最後まで一定した音量で、ほとんど間違いなく最後まで読み切る。
その後、福沢諭吉の『学問のすすめ』の朗読練習。
《賢人と愚人との別は、学ぶと学ばざるとに由って出来るものなり》
と言う一節を読みながら、この方は間違いなく賢人だなあと、学ばない愚人の私は思う