2015年3月24日
肺塞栓血栓症および深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群で緊急入院した私。

訳もわからぬままICUに入り、血栓溶解の処置などを受け入院すること二週間。流れた血栓をキャッチするフィルターの取り外しも終わり、治療も終盤に入りました。翌週に再度CTと心エコー検査を受け、問題がなければ退院となります。

この頃にはすっかり入院生活に順応し、食事も普通に食べていましたし、病院一階のコンビニへもたまに買い物に行っていました。仕事を辞める決心もして精神的にもスッキリしていたように思います。



そんなある日、向かいのベッドに新たな入院患者のお婆さんがやってきました。心臓カテーテルのメンテナンス処置での入院という彼女、顔を合わせた時に挨拶を済ませて以降、よく話しかけてくるようになりました。というか非常にお喋りな方で、朝から夜まで一日中ずーっと話しかけられました。

彼女に聞かされた身の上話によると、数年前まで息子夫婦とともにアメリカのビバリーヒルズに住んでいたとか。近所にはハリウッド俳優が住んでいたとか、パパラッチがどうたらとか、ホンマかいなというスケールの話ばかり…

息子さんは学生の頃に向こうに留学し、コンサル系の仕事をされているとかで、話を聞く限りかなりのエリート。孫のお受験用の塾に月40万以上払っているとか、嫁が気に入らないとか、そういう話をエンドレスで聞かされ続けました。普段は一人暮らしのようで、寂しさと退屈さから話しかけてくるんだろうなと思い、可能な範囲で付き合っていました。

彼女は糖尿病で食事制限があるにも関わらず隠れてお菓子を食べていて、口止めのためか私にも分けてくれました。低血糖になった時用にマリービスケットだけは許されているようなのですが、マリーではなくクッキーのムーンライトを食べていたので、看護師さんに見つかって怒られていましたよ。この方は色んな意味で強烈に記憶に残っています。




他には退院が決まっているけれど家には帰りたくないとさめざめと泣いて看護師さんに甘えているお婆さんや、すごく手がかかるのに家族がちっとも見にこないお婆さんなど、入院中に色んな方と遭遇しました。病院というのは社会の縮図で、本当にいろんな方がいます。お金持ちもいればそうでない人もいるし、皆等しく痛みや辛さ、寂しさを抱えています。

この病棟での入院経験で分かったのは、病棟看護師さんの仕事は介護士とほぼ同じだということ。患者は高齢者が多いので、下の世話、入浴や食事の介助、話し相手など大変な仕事ばかりです。特に夜は人手も少なく、常にどこかの部屋からナースコールが鳴り、休む間もなく大変そうでした。おまけにお年寄りは人を見ているので、気が強く厳しい看護師さんは不人気で優しい方ほど大変そうに見えましたよ。

そして、手のかかる病人の家族ほど滅多に見舞いに来ないということも分かりました。洗濯物などを置きにきても、いつの間にか黙ってさっさと帰ってしまい、看護師さんが何か伝えようとして困っている姿を何回も見かけました。

自分の家族が入院した時、お世話になる看護師さんには極力迷惑をかけないように注意しなければ…と固く心に誓いました。入院に限りませんが、お金を払っているんだから当然だろう、みたいな態度の人は良くありませんよね。ホテルや飲食店などで稀にそういう方を見かけますが、それは人としてダメだと思いますよ。

入院生活終盤は治療よりも人間観察が主だったのかもしれません。ビバリーヒルズの生活まで聞けましたし、これもいい経験でした。

そしていよいよ退院になります。