なあ、ビーナス
そろそろ夢から出てきて
なあ、ビーナス
ずっと君をみてるから

空の向こうで会おうか
すぐに行くからまっていて

なあ、ビーナス
ぜんぜん言葉が見つからない
なあ、ビーナス
ちょっと変なのかな

少し見ただけで熱くなる
知ってるんだろう?君だって

なあ、ビーナス
このまま二人で
なあ、ビーナス
うんと気持ちいいことをしよう
あなたが言いたいことを
僕はどれだけわかっているだろう
あなたが許せないことを
僕はどれだけわかったつもりでいる?

きっと無かったことにはならない
あなたはこわいといった
怖いのか、恐いのか
つまりあなたの中で僕は変わってしまった

いや、それともこわいのは僕じゃなく…

あの頃の僕はもう居ないかもってそう思うけど
それでもフタリノカンケイはセーブした所からやり直し

あなたはなにも話さなかった
あなたの口から出たたくさんの言葉はどれも、
つまりカラッポだった

きっと会って話すことって僕とあなたのそれぞれで
会話にはならないと思う

だから今やらなくちゃって思うのは
自分の中に針を垂らすこと
なるべく鈎のたくさんついた禍々しいモノを
自分の中にズブリと…

もっと言葉が上手かったら
僕達はきっと不幸になる
早稲田大学の入学式の日だった。大隈講堂に集められた新入生達は諸々の事務的な歓迎を受けてウトウトとしていた。その中で僕はふと違和感を覚えた。僕の座っている席からほんの4、5列前にガシガシと膨らんだ独特の髪型をした男が見える。アフロである。他の新入生のなかで異様な存在感をもつ彼に今まで気付かなかった僕自信が不思議だった。観察を続けているとどうやら彼が学生服を着ているらしいことが見てとれた。それに彼の周りにも数人、同じように学生服を着ている男が居る。どういう人達だろうと思っていると、退屈だった壇上がにわかに騒がしくなった。目を向けると、まさに学生服に身を包んだ青年達がドムドムという太鼓の音に合わせて目一杯に四躯を躍動させていた。応援部である。短い登場の演舞が終わると、中心で待っていた青年が声を張る。私はぁ!!政治経済学部在籍ぅ2年!!坪内ぃ重信であります!!今回僭越ながらぁ全体の…どうやら坪内君というのが彼の名前で、真ん中で叫ぶ係に任命され、僭越であるらしい。坪内君の絞り出すような大声に呼応して、僕の数列前からも野次が飛んだ。なるほど、件のアフロ達は会場を盛り上げるためのスパイ、あるいはサクラといったところなのだ。ここにきて、僕は興に入る前にある友人のことが気にかかった。友人とは京都で高校生活を送っていた時に知り合った森君のことで、彼は大変、時代錯誤かと思うほどに、この大学を愛しており、バンカラというあり方にある種憧れに近い感情を抱いていた。森君も僕と一緒にここへ合格して、最前列の辺りに座っているはずなのだ。目の前で憧れのバンカラの偶像とでもいうべき青年達が声を張り上げ、後方からは無数の野次が聞こえてきたら彼はどうするだろうか?そう、森君は立ち上がって叫んだ。いいぞぉ!!坪内ぃ!!このとき、僕の頭の中はめまぐるしかった。まず、やっちまった、と思い次に、いやこれでいい森君がここでしたいのはこういうことだ、と。続いて、いやしかし応援部は新入生が野次を飛ばすことをヨシとするだろうか?最後に、いやきっとバンカラなら彼を豪気と見なして森君はヒーローになるはずだ。僕は半分森君の情熱に呆れ、半分その勇気に感心していた。そして森君はきっと本物のバンカラになる。
え…あれ、だれ…
アフロ達がざわつき始めた。僕はこの瞬間にこの大学を丸ごと嫌いになった。彼らにすれば応援部とは内輪で馴れ合うためのサークル活動に過ぎないのであり、外部の豪気な学生は迷惑でしかなかったのだ。バンカラはとっくに死んでいた。すなわち森君の理想は無惨に踏みにじられたわけであり、さらに残酷なことは最前列の森君は後ろでコソコソと話している彼らの醜さに気づいてすらいないことだった。彼らはモラトリアムを消費するために伝統を貶めて、それを彼ら自身が自覚せずに、結果としては純粋な憧れを持った青年を、その憧れの立場から嘲笑うのだ。避けようもない悲劇はいくらでもある。復讐の怒りに裏打ちされた残酷もいくらでもある。しかしそれらはあるべくしてあるものであり、それを飲み込み生きていくことが人間の美しさの源でさえある。ところがどうだろう。件のアフロ達の振る舞いは、愚かさからくる残酷だ。無知と無関心からくる悲劇だ。いや、悲劇などではない。茶番である。この茶番はいずれ森君の魂まで腐らせてしまうことだろう。誰もそれを意識せずに。あのアフロはアフロというものも、ただ目立つ髪型くらいにしか考えていないだろう。世にあるあらゆるものに歴史があり、それには価値があり、重いものだということを知らない。教えられても分からない。女性の人生を考えようともせずレイプをしたマネーゲーム同好会の輩と彼らの行いは寸分違いない。世に悪があるとすればそれは彼らのことだった。