「地下なのによくこんなに広く深く造れるよな。」
「岩盤とか水とか大変だったろうなあ。」
「関東なんだから、ガスも危ないのにな。」
「ガスって臭うんじゃなかったか?」
「いや、メタンなら無臭だな。火山なら硫黄臭いだろうけど。」
さすがに検知器くらいは至る所にあるはず。
直径2メートルのトンネルをひたすら見て回る生活を繰り返してきて、この違和感に今まで気づかなかったのが不思議だ。
地下水の噴出に悩まされたり、深くなればなるほどあらゆるリスクも高くなっていく。
シェルターとしての強度は増すが、こんなものを元々高層ビルが建ち並び、地下鉄も網目のように張り巡らされた環境の中で、しかもあくまで噂ではあるが海面上昇が年々確実に進行していると確認されてから造り始められたというのは、どうにも信じがたい。
「あれこれ考えたところで何が出来るんだか。」
「文句は言うが何もしないってやつだな。帰ってビールでも飲むか。」
「ビール?そんなものとっくに供給が途絶えただろうが。」
「何言ってんだ、昨日までしっかり飲んでただろう?」
「おいおい、とうとう夢にまで見るようになったか。」
どうにも話がかみ合わない。
「まあいいや、ちょっと疲れてるようだからさっさと帰ろう。」
「ここの空気は良くないからな。そんな時もあるさ。」
おや、ここにこんな分かれ道あったっけ。
「なあ、これどっちに進めばいいんだ?」
「左だろ?」
「右は何処にたどり着くんだっけ?」
「右?そっちは担当じゃ無いだろ。」
「そうか。」
「お前、今日はだいぶおかしいぞ。」
どう考えても、おかしいのは自分ではない気がするが。
感覚まで疲れきっているようでそう反論する気にもならない。
「右の担当って誰だったっけ。」
「さあ。」
「さあって、食堂で顔を合わせる連中の中の誰かだろう?」
「そうとも限らないだろ。」
まあ、確かに。
「この前、下の連中の作業場を見せてもらった時に乗ったエレベーターもちょうどあのあたりじゃないか?」
「下の連中?」
「そう。」
「上も下も無いだろ。」
「はあ?」
さすがにムカッときて振り返ると落ち着け、と言われ深呼吸するように促される。
「収まったか?」
「収まったも何も、大丈夫か?」
「そりゃこっちのセリフだ。ほらもうすぐだからさっさと進もう。」
確かに、こんなところで感情的に立ち話なんかするより、一旦それこそ落ち着いてからの方がお互いにとって良いだろう。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。
※この作品は2025年8月11日にnote.comに掲載したものです。
