「何か問題があるというわけではなさそうだね」

井上さんが言う。

 

昔はそれこそサーバーもそれぞれ独立した筐体きょうたいで、一台一台調達するたびに予算との相談と思い切りが必要だったが、現在では増設したいパーツをノイズに強い共通ケーブルで接続してあげればいい。

 

パーツ単位なので経済的、扱いもシンプルだ。

 

サーバーごとにラックを作って一つの"島"と呼ぶ。
その島に調達したパーツをつなげていくわけだ。

 

ただ、より多くなりがちなグラフィックボードばかりは接続距離をできるだけ短めにするなど、気をつけなければならない。

 

「結構、熱を吐くのかもね」

 

燃えないよなあとフラグになりそうなことは口にしないでおこう。

 

 

先日、井上さんの息子さんが無事に中学の卒業資格を得たとのこと。

 

この前、教務センターに行ったのは、手続き、そして次の段階である高校の単位を取得する流れと大学水準の話も含めた選択肢の説明を聞きに行ったらしい。

 

インターネットでも十分手続きは可能だが、親子で節目に記念の意味も込めて教務センターに行くのが多くの家庭の密かな思い出作りになっている。

 

 

昔の中学までの義務教育とは違い、今の義務教育は高校相当までである。

 

日本人は海外と比べて覚えるものが多い方だ。文字だけでも、ひらがな、カタカナ、漢字とある。それも決して少なくない。

 

アルファベットと文法、会話だけマスターできればいい英語とは量が違う。

 

かつての日本の教育は大学卒業でも世界水準では中学卒業レベルだと揶揄やゆされていた時代もあった。

 

そこで社会制度の大きな変更がようやく落ち着いてきたところで、教育指導要領どころか日本の教育に対する大きな変更が行われている最中である。

 

授業は民間の動画サイトに投稿されている。昔で言う文部科学省が教育指導要領に設定したレベルを満たす優秀な授業動画だ。

 

より評価が高くて人気の授業動画を投稿し続けている人物に賞を与えるという、コンペのようなものを2年ごとに行っている。

 

投稿者は動画サイトから収入が入るし、公に名をあげ、社会からの信用が高くなる。

皆、同じ動画ベースで学ぶので、提供側の問題による差もなくなる。

 

家だとどうしても集中できない、いたくないなど何かしらの事情がある場合は各教務センターに学習室が設けられているので、そこに通えばいい。

 

聞きに行けば解説してくれる職員も勤務している。

対応できる職員がその場にいなければ、チャットが使える。

 

さっさと実績を積んでしまえば、修了試験を受けて次の学年へ進むことも出来るため、同い年でも進捗は様々だ。

 

漢字まですべてマスターしようと思えば、時間がかかるため、義務教育が高校相当までと設定されている。

 

各種資格や免許は年齢や経験の制限もあるため、自分が目指すキャリアに関係が無ければ、ある程度基礎だけにとどめ、より専門性の高い分野に進む人たちも多くいる。

 

井上さんの息子さんは優秀で、標準のペースよりも半年は早く卒業できたらしい。広く標準の科目を取得しているので、将来の選択肢をまだ細かく定めずに時間をかけて見出すつもりだろう。

 

飛び級という言葉が昔あったが、今ではその言葉自体なく、自分の学習ペースや能力に応じてそれぞれが好きなようにやっている。

 

逆に、習得ペースが著しく遅くなってしまえば、高校相当までは修了する必要があるだけに、その分自分の残りの人生の時間をただ消費してしまうだけになってしまうので、早い段階から自分の人生について考える。

 

また、親に問題があったり、両親と死別していたりする子供だっている。

その場合は、ベーシックインカム制度がそもそもあるので、教務センターのサポートのもと、一人暮らしだって可能だ。

 

わたしももう少し生まれてくるのが遅ければ、ひらがなと英語を最初に学ぶ今の学習順序に浸れて、英語が普通に話せるようになっていたのかもしれない。

 

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この物語はフィクションであり、実際の人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

この作品は2024年2月8日にnote.comに掲載したものです。