おはようございます!のいです。
今日は、宮部みゆきさん著「英雄の書」です。
謎の本に魅入られた兄を探し、本の中の世界へ旅立つ少女の冒険譚です。
以前のアニメ作品「ヤミと帽子と本の旅人」に似てなくもない・・・。
森崎友理子は小学5年生。
ある日兄の大樹が同級生を刺し殺し、失踪してしまいました。
家族思いで優しい兄の突然の変貌に動転したうえ、
警察やマスコミの対応で心身ともに疲弊してしまいます。
事態が鎮静化した頃、本の形になった異世界の生き物や
ふとしたことから出会った大樹の同級生の女子生徒から
事件の背景を聞くことができました。
大樹は校内で起きていたいじめを止めようと奔走し、
彼を目障りと感じた教師や同級生によって追い詰められ
今回の事件に至ったというのです。
そして兄が心の拠りどころとしていたのは
「英雄の書」と呼ばれる本とそこに出てくる「英雄」でした。
兄・大樹は「英雄」を探して本の中の世界に入ってしまった
というのです。
摩訶不思議なことだらけですが、友理子は兄を探すため、
本たちや本の中の世界で募った協力者と共に
旅に出ることを決意します。
本作は思春期間近の少女の冒険ファンタジーですが、
私は思春期の心を映す隠喩であると読みました。
一寸先は闇でどこに進めばいいかもわからない状況。
協力者も一致団結というわけではなく、
自分事の最終判断は自分でやらねばならぬ責任感。
主義主張の違いから争い、周囲は荒廃し、ときには抵抗という言葉すら思い浮かばない圧倒的な力でねじ伏せられる理不尽。
そして、長らく自分を守ってくれた兄との永遠の別れ。
どれも形は違えど思春期に多くの者が経験することです。
したがって本作は、思春期の心の移り変わりを人間の弱さ、強さ、しなやかさというあらゆる側面から映し出し、多彩な登場人物に投影したのが本作ではないかと考えます。