この時期、演習系の授業は最終課題の時期を迎えていて、
文献レビュー的なレポートを書かせ、プレゼンまでさせるのですが、
学生達が文献交渉している間は私も暇なので(笑)、
一緒にまだ読んでいなかった文献などを、興味に任せて読み漁ったりします。

で、今日の授業中に、こんな文献を見つけました。

「アメリカンフットボール選手のためのパワー向上方法」

Methods of Developing Power With Special Reference to Football Players

G. Gregory Haff et. al.

英文を日本語訳したもので、Strength & Conditioning Jounal 23巻6号に掲載されているものです。英語での本文は、NSCAのサイトで、アブストだけ見ることができます。
え?アメフト?とお思いかと思います。2年生の基礎演習の受講生に、アメフト部の留学生が3名もいるので、いつも英文の論文や書籍から課題を出しているのですが、ネタ切れにならないよう(笑)、一応こちらもいろいろ準備して、彼らの競技の役に立ちそうな文献を読んでもらったりしているのです。今日もまさにそのつもりで「お、いいのがあった!」と思ってコピーして読んだら、なんと私が常々試行錯誤しながら考えている「筋力」について、実に明快な示唆を与えてくれるものでした。

競泳の場合は、水を扱うスポーツですので、ハッキリ言って筋力的にはそれほど必要ないというのが、これまでの大半のコーチの意見でした。
しかし、近年、トップスイマーのストレングスは徐々に高くなってきています。フローレン・マナドウはベンチプレスを160キロ挙げるとか、アダム・ピーティーはレッグプレス400キロ挙げるとか、色々な逸話を聞いていて、「なんで水はそんなに重くないのに、重いものを持ち上げる必要があるのか?」と不思議に思いますよね?
以前、NSCAの基調講演で京大・森谷教授が「競泳選手がなぜ筋トレするか?それはエネルギータンクが必要だからじゃないのか?」と問いかけられていましたが、私もそう考えていました。タンクを大きくするには、ある程度以上の重量で、それなりのレップ数を何セットかこなさねばなりません。最大筋力が低いと、それだけの仕事量が賄えなかったり、故障の原因になるので、そのためにも筋力は不可欠な要素だと考えていました。
これまで、私は木村のPT指導をする際にも、2週に1度は95%Maxで、1レップごとにインターバル入れて3レップ…などといったワークアウトを入れてきました。バルクアップのワークアウトを組む際に、やはり「(筋力の)頂点の高さ(1RM)」が高いと、例えばドロップセットにしても出足の負荷が高くできますし、その分後半のレップ数が多くこなせるようになります。それらは最終的に、バルクアップだけでなく、かなり持久的な負荷となっていくのですが、固有筋の酸素需要が増し、狙った筋への酸素供給能力も向上するという先行研究もあったため、Maxのレベルを定期的に攻め、多くの仕事量がこなせるように仕向けてしていたのです。
もう一つは、単に身体を大きくする目的だと、もっと軽い負荷でスローリフトでもいいのですが、木村は重い負荷が上がる時の方が、スピード練習の際のピッチがしっかり上がるのです。泳ぎの微調整ができない木村にとって、ピッチが上がるというのは、単純にスピードを上げるための絶対条件だったので、そこをトレーニングで攻めるのは、必然だったわけです。

さて、この資料にはこのように書いてありました。

「例えば筋力は、発揮パワー、スピード、方向転換能力の基盤とみなされるべきである」「フロントスクワット1RMも、20m走のタイム、方向転換走のスピードと有意に相関していた」これらのことを、複数の先行研究の結果を踏まえながら解説されていたのです。
そして「筋力はパワー向上の基盤」という見出しで、高いレベルの筋力が、発揮パワーの高さを決定するということが述べられています。
筋は収縮スピードが速くなりすぎると、出力を小さくして、そのピッチに対応しようとします。その時の、出力の高さを規定するのが、絶対筋力だということなのです。

競泳の短距離や、木村のような技術的なコントロールが難しい選手や、私のような泳技術がそもそも低い選手(笑)は、短距離を速く泳ぐにはピッチで稼ぐしかないわけですから、裏を返すと、最大筋力がピッチの速さと、その状況下での「出力の高さ」を決める…と考えると、もの凄く筋力の高さが重要なことであると、考えることができます。

この文献には、他にも筋力とプライオメトリックとの関連性や、それらをワークアウトの際にどのように解釈しセットを組むべきか?などの示唆が書かれており、今後の私のPTとしての指導バリエーションが、また増えてきたように思えました。

この写真は、リオパラの際に、イギリスチームが毎日のように行っていたメディシンボールのプライオメトリックスローです。仮設プールの床がいつか抜けるんじゃないか?と思って見ていましたが(笑)。アップの最後の方で、いつもどの選手も、結構な回数をプールサイドで投げていたので、きっと普段は、もっとやっているか、もっと重いのでやっているんでしょうね。
聞くとイギリスチームは、2012年後にストレングス強化のために、チームにCSCSスタッフを入れ、全員にストレングストレーニングをさせたようです。私も「ベンチとラットプルは100キロ挙げないと、アスリートと言ってはならない」と言っていますが、どうやらその重さも、これからは増量した方が良さそうですね(笑)。

そういった「高速で動いても出力を高く出す土台」ができてこその、「機能性」だと思えるのです。
その件については、また別の機会に触れたいと思います。