第11回ショパンピアノコンクール(1985年 10月)に19歳で優勝したブーニンは、その当時日本でも「ブーニン・フィーバー」と言われるほど人気があり、超人的なテクニックで超高速にエネルギッシュにメリハリをつけて演奏する姿はテレビでもしばしば見かけるほどのタレントぶりでした。長身でハンサムでしかも若くて天才のブーニン。でもなぜかその頃のブーニには私はそれほど夢中にはなれず、いつの間にか彼が表舞台から姿を消したことも知りませんでした。

 

その後の彼の人生物語を今年のお正月のNHKの特別番組「〜天才ピアニスト 10年の空白を越えて〜」で知り、心打たれてにわかファンになりました。

ソ連で生まれ育ち、1988年に西ドイツに亡命して現在57歳のブーニンは、ここ10年左肩と左足(ピアノ演奏はペダルを踏むテクニックも必要で、左足も大切)をひどく痛めて演奏不能になっていたのでした。

演奏が出来なくなり精神的にも打ちひしがれる彼が、不自由な左手と左足を使って今出来る演奏法を見つけていく姿に心が震えました。かつてはスターで超絶技巧を誇ったブーニンが、年齢を重ねて体が思うように動かない中、悲しみ、不全感を抱きつつも、今の自分を受け入れていく心の葛藤、その中で今出来る可能性を模索しつつ、自分を奮い立たせる姿に、感動しました。以前の彼とは全く異なる演奏です。機械のようだった彼の演奏が苦しみを抱える人が生きる為に奏でる音色に変わったように感じました。

 

順風満帆な時のブーニンより、「むしろ今の主人に惚れ直しました」と語る夫人の言葉に、繊細で真摯なブーニンのここ10年の苦闘の日々を想像しました。心に残るドキュメンタリーでした。

辛いニュースが続く中、沈む気持ちを支えるために今年はブーニンを追いかけたい私です。