すずめのなき声にベランダを見ると小さなすずめが笹の枝にとまってしきりと鳴いています。

10分ほども鳴いていたでしょうか。

ベランダのフェンスに大きなすずめが飛んできて、盛んに子すずめに声かけをしています。

「ここまで、早く飛んで来てごらん」と言っているような、誘いの鳴き声。きっと母すずめでしょう。

しかし子すずめは、笹の枝から飛びたつことが出来ず、ひたすら鳴くばかり。

母すずめは空に飛びたっては何度もフェンスにまたやってきます。

「こんな風に飛ぶんだよ」と、飛び方を教えているようです。

 

何度かの誘いの後、子すずめは笹の枝からフェンスまでは飛べました。しかしそこから先、空に向かって飛ぶのは躊躇しています。

なんども小さな羽をパタパタさせて、飛ぶ練習をするのですが、やはり飛び立つことはできません。

母すずめは、今度は食べ物を口移しで与えに来ます。何度か餌をもらった子すずめは、一生懸命飛ぶ練習をしています。でもやはり母と一緒に飛びたつ勇気は出ない様子。

 

餌を与えたのちに飛んで行った親すずめはもう戻ってきません。

それから10分ほどたち、やっと子すずめは、空に向かって飛んでいきました。

 

何度も子供に声掛けをし、餌をあたえ、最後は飛び立ったまま、戻ってこなかった親すずめ。

子が勇気を出して飛びたつことを願い、心を鬼にしたのでしょうか?

子スズメは我が家のベランダから右手方向に飛んでいきました。

きっとそこで親すずめが待っていたのでしょう。

 

思いがけなく目撃した親子すずめの行動に胸が締め付けられる切なさと、温かな思いが広がり、小雀の旅立ちを見つめていました。

 

あの子が亡くなって18年が過ぎた翌日の朝の出来事です。

私はあの親すずめのような子育てをしただろうかと考えると辛くなりますが、大切に思っていたことは親すずめと同じです。

ある日何も言わずに突然に、再び会えない世界に旅立ってしまったあの子。18年前の小雨の降る5月の土曜日、子すずめと同様にベランダからの旅立ちでした。

子スズメがこれから無事に生きることを願うとともに、我が子の旅だったあちらの世界が安らかの世界であることを、遺された母は願い続けています。