「こいつは…俺の人生をめちゃめちゃにしたんだ!」
赤い髪の剣士が叫び、抜刀したレイピアを宙にかかげた。
話がまだ掴めないが、この剣士とキィルは旧知の仲なのか?
だが、どちらにせよキィルが窮地にあることは間違いなかった。
剣士の剣が、最初レイピアのように細いものに見えたが
普通の長剣に姿を変えている。
どうやら、魔法のかかったアイテムなようだ。
緊迫した空気が流れる。
「話して判ってもらえないなら、剣で語るしかない」
アレルが冷静に呟いた。
「来い!」
カキン!
金属と金属のぶつかり合う音が聞こえた。
アレルと赤い髪の剣士は剣の打ち合いを開始したようだ。
一方、赤い髪の男の連れの魔導師風の魔族のような男。
彼はゼイラたちと対峙していた。
「アステール・エ・パミーユメーダ!」
詠唱が終わると、ファイアボールが飛んできた!
ゼイラはそれを紙一重で躱すと、男の背後から一撃をお見舞いする。
盾の魔法が使われていたようで、
急所に当たるはずの一撃は中空で止まった。
「痛って~!」
宙の壁にはじかれ、ゼイラはかなり打撃を受けた模様だ。
直接攻撃は無理と考えたほうがいいかもしれない。
サザンが扇で跳ね返したファイアボールも
男の顔前を通過して、直撃することはなかった。
直撃は避けたものの、少し髪の焼ける
嫌なにおいがした。
「前髪が焦げちゃったな。」
絶えず、次の詠唱に入った。
ローラとフォースは、飛んでくるファイアボールの軌道を
武芸の嗜みのないティオからそらすのに精いっぱいで、
戦闘には加われない状況だ。
そんな中、アレルと赤い髪の男の激闘は続いていた。
アレルは、剣の太刀筋が良いのか、
赤い髪の男を圧しているいる。
赤い髪の男の斬撃は、アレルにそらされ、
優位を保ったまま、ついにアレルが
剣士の剣を中空に舞い上げた!!
くるくると回った剣がティオの居る方向に向かったのを
ローラの棍が弾き、逸れたまま地面に突き刺さった。
アレルが剣を男の顔面に向けて云った
「チェックメイト。」
「くっ!」
魔導師の男はそれを見て、
「やれやれ、負けちゃったようだな。」
のんきに肩をすくめ、詠唱をやめた。
アレルが心配してゼイラに目をやると、
着物風の装束の振袖こそ焦げ付いているものの、
無事なようだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
「あんたはなにかキィルに恨みでもあるのか?」
アレルが問う。
フォースが、キィルの口に巻かれた猿ぐつわを外した。
「俺もそれを聞きたい。」
キィルが掠れた声で小さくつぶやいた。
やはり身に覚えがないのだろう…
人というものは、どこか自分の知らないところで
人と関わり、そうとは思わず傷つけてしまうこともある。
特に、エルフで長命であるキィルである。
思わぬ逆恨みをどこかで買ったということがあるかもしれない。
赤い髪の男は、
サークレットを外し
髪を縛る紐を解いた。サークレットと長い髪で隠された
エルフの長い耳が露わになる。
「あんたもエルフなのか?」
「これでもわからないか?」
赤い髪の男がキィルを睨み付けた。
「…クローディア!?」
「やっと思い出したようだな…」
赤い髪の男は、実は女性だった。
理由あって、男装して剣士をしているという。
「今は、剣士としてザインと名乗っている」
「キィル、その娘はもうそんな大きくなったのだな。」
「え?」
ティオが驚きの声を上げる。
「兄さん?」
「…」
「お前はその娘にそう偽っているのか?
なんともお前らしい詭弁だな。」
どういうことだろうか…
ティオは不思議そうにクローディア(今はザインと名乗っている)
とキィルを交互にを見つめた。
「事情はわからないが、キィルを自由にしてやってほしい。」
なんとなく、アレルとローラだけ、事情が呑み込めた様子で
場の空気を見守っている。
サザンはとっくに知っていたというふうだ(占いで知っていたのだろう。)
ティオ、フォース、ゼイラは頭に?をいっぱい浮かべているが
誰も説明してくれる雰囲気ではない。
「ゼロ、引き上げるぞ」
ザイン(クローディア)は魔導師の男にそう呼びかけると
遺跡の奥へと消えて行った…
その場に残されたパーティーは
キィルを拘束から解き(黒い蔦に阻まれ思わぬ時間がかかった)
改めて元玉座に鎮座する亡き王の残骸を見た。
「死んでるのに髪の毛が伸び続けているんだな…」
台座に座り、鎧甲冑を身に着けた
魔王の亡骸。その髪は彼のぼろぼろの頭蓋骨の
頭皮にあたる部分から夥しく伸びている。
荘厳な最期。
胸には大きな大剣が突き刺さり、
それで絶命したことが明らかであった。
彼らは、しばし、王の残骸の前で敬礼した。
今回のキィル誘拐騒動で
また新たな敵を作ってしまった。
赤い髪のエルフ、ザイン(クローディア)と
その相方、ゼロ。
この決着はいつかつけなければならないだろう。
アレルはそんな予感に苛まれた。
数時間後…
ザイナノーツェを後にした一行は一路、
ライナノーツェに向かい、飛空艇でルアーガに戻っていた。
なかなか口を開かないメンバーたち。
そんな重苦しい空気を打ち消すべく、
ローラはゼイラに話しかけた。
「そうだ、ずっとゼイラさんに聞いてみようと思ってたんだけど…」
急に声をかけられたものだから、ゼイラはきょとんとした。
「ほえ、何?」
「キョッキョッ キョキョキョキョ!っていう鳴き声の鳥って?」
「ああ、ホトトギスだと思う」
「ウグイスじゃないの?」
「似てるけど、ウグイスはホーホケキョだよ」
「じゃあ、ホーホー フィフィって鳴く鳥って何?」
「ホーホー フィフィ?うーんウソ。」
「嘘!?」
ローラはどきりとした。
サザンに自分の恋を嘘ついて友達の話として
聞こえてきた鳥の鳴き声だった。
ウソ…嘘か。
そんな名前だとは思わなかった。
あまりにその場にピッタリの名前。
そして、アレルへの気持ちはまだ、消えない。
ローラが急に黙ったので
ゼイラは不思議に思ったが
「ごめん、おれ、疲れたから寝るね。」
うまく話を逸らし、それから15秒とかからぬうち
もはや寝息をたてはじめた。
ティオはキィルに先ほどのザイン(クローディア)が
語った話の詳細を聞きたかったが、兄が憔悴し、
それどころではない空気を感じ、押し黙っている。
そんなティオを、フォースも近くで労わる。
「とにかくキィルの無事が確認できて本当に良かった。」
「アレル、すまなかった。」
まだ、キィルの声は掠れている。
「いや、とんでもない。」
「結局、パーツはみつからなかったんだ。」
「帰ったらまた、解析すればいいさ。」
「時間もたっぷりあるしね!」
寝ていたはずのゼイラがそうフォローしたので
一同は思わず笑った。
ひんやりとした飛空艇から見える
景色と空気が清しい。
夕焼けが、目にまぶしい。
アレルは夕日に染まる空を見つめ、目を細めた。
第28話 赤い髪の男!?③終わり 第29話に続く…
***
キィルとクローディアの間にあったこと、
また別の機会に書かせて頂きます。
とりあえず、今回キィル、無事帰還です。
この小説で死んだ人って、まだ4人だったと記憶しております。
(過去の死者は除いてます)
ファンタジーの割に少ないですね。
また、誰だったか思い出しながら過去の
話を読んでくださったりすると大変嬉しいです。
このお話はそろそろ終盤に向かっていきます。
これからの展開にご期待ください。
この第1章は予定では全40話です。
遅筆ながら進めていきますのでどうぞお楽しみに~

