全身が赤茶色、垢まみれなのか、土の色なのか、半開きの目だけが異様に目立っていて、細い枝の様な手足をブンブン振り回すように踊っている。
例えるなら人が猿真似をするような動きに似ている。それをもっと激しくしたような動き。
朽ちかけている注連縄の向こう側で全く場所は変えず、ひとつ処で乱れ舞うように踊り続けている。
細い体は男か女かも判らない。
一度だけ私に気付いたのか視線があったその目には敵意も怒りも悲しみも、なんの感情も浮かんではいないかった。
ただ乱れ狂うような大きなうねりになす術なく巻き込まれ手足をバタつかせているだけ、と。
大昔から張り巡らされてきた幾つもの結界が少しずつ壊れているのを感じる。
それが地の巡り、水の巡り、日の巡りを乱している。
だからこれまで眠りについていたであろう怪が揺さぶられ、起こされ、騒ぎ始めている。

私の目に見えているのはどこかの山の奥深い緑で覆われた薄暗い場所。
だからこの『人では無い躍り手』は山の怪か、山の神とされている怪か。
かろうじて保たれている結界である注連縄(これは揺れていない)が朽ち果てた時、この怪はどうなるのだろうか?
その山はどうなるのだろうか?