ホテルマンは3年で辞めました【30.無駄な昇格】 | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 入社して1年が過ぎ、融通の利かない堅物だったウエイター稲垣先輩が辞め、上からも下からも煙たがられていた鬼軍曹のようなキャプテン武田さんもいなくなり、新入社員が半年以上続いたことが無かったメインバーであるセントジョージは、俺だけでなく中途入社の野口も既に半年をクリアしている。


俺が入社した頃とは比べものにならない位に職場のムードは良くなり、重かった空気も軽く明るい雰囲気のBARとなった。


だが、俺の気持ちはもう限界を超えていて、BARのウエイターという職種では自分に伸びしろが無いことを悟っていた。


それは、1年以上マネージャーをはじめとした黒服の仕事ぶりを見ていて、フロント志望の俺としてはそこまでこの仕事に染まりたくないという思いがあったのだ。 

 

キャプテン以上の黒服ともなると何十人、何百人もの顧客の顔を覚えているだけでなく、キープしているボトルの銘柄とボトルナンバーまで把握している。


だからキャプテンウエイターから上の人ならば、顧客が入り口に見えた瞬間にボトルラックに向かい、客がテーブルに着くと同時にキープしているボトルをテーブルに置くのだから、客としても自分を覚えてもらっているという充実感があって気分が良いだろう。


たまたまボトルをキープしているだけの、常連とまではなっていない客ならば、席に着いてからスタッフにボトルカードを出し、そのナンバーを見てからキープボトルを探して持って来てもらうのだから、常連とは席に着いた時から扱いが異なるのだ。


そんな黒服達の仕事ぶりは凄いとは思うが、俺にとっては料飲部門でマネージャーになる事も全く興味も憧れも無かった。


 そんな俺でも、7月になると新しい制服となってしまった。


詰め襟のバスボーイというタイトルから、ワンランク上のアシスタントウエイターに昇格してワイシャツに蝶ネクタイのモンキーコートが制服となった。


1年目に始末書3枚という問題新入社員は、同期より3ヶ月遅れの昇格だった。


「おっ、ヤナダもやっと?何かキャバレーのウエイターみたいだな(笑)」


エレベーターで同期の岸田と会っての第一声である。


後ろでは「クスッ(笑)」と、レストランのウェイトレスが笑う声がした。  


昇格は素直に嬉しかったが、やはり俺はこんな所でやりたくもない仕事に毎日を費やしてる時間が無駄に感じていたのだった。


〜つづく〜




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