総理大臣・坪倉義郎【26.愛情不足】 | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 「新宿が最近騒がしいですね。」


深刻な面持ちで坪倉総理が酒井官房長官に言った。


「ええ、未成年の家出に新大久保界隈での立ちんぼと言われているパパ活、もしくは売春婦が目立っているようです。」


「パパ活ですか。我々にはピンと来ない言葉ですね。新大久保といえば外国人のそういう女性が多い地域ですよね?」


「はい、しかし最近ではコロナの影響もあったのか、日本人の若い女性、更には未成年も増えていると報告を受けています。」


「未成年?家出ですか?」


「はい、それもあるでしょうが新たな報告によりますと、ホストクラブへの支払いの為に売春している少女も多いという事です。」


「え?ホストクラブ?未成年がですか?」


「はい、未成年の少女も客にして支払いが出来ないと売春をさせているホストが増えているらしいです。」


「都知事は何をしてるんですか!」


「全くです。都庁が新宿に移転しても街の雰囲気や犯罪の数は昔と大して変わっていないですね。」


「しかし未成年の家出といい、売春といい、家庭環境はどうなってるんですかね。」


「やはり共働き世帯や片親世代が増え、子供に目が行き届かないのかも知れません。」


「片親ね・・・。」


「あ、総理も母子家庭だったそうですね。」


「はい。ぼくもそうですよ。」


「そんな風には感じられませんが。」


「ん・・・それは母子家庭に対しての偏見があるからじゃないですか?」


「い、いえ、そんなあ・・・。」


「いや、いいんですよ。全く気にしませんから。」


「はあ・・・。」


「うちはぼくが7歳の時に両親が離婚しましてね。それから母は銀座でホステスをしながらぼくを育ててくれました。」


「ホステスですか?」


「はい。意外ですか?」


「ええ、まあ・・・。」


「当時は離婚率も低く、小学校でも片親の児童はひとクラスに1人か2人位でした。そしてシングルマザーの働き口というのも、時代的に選択肢がそんなに多くなかったようです。」


「それでもよくここまで、こうして総理大臣にまでなられて・・・お母様も凄いお方だなと。」


「いやいや、そんなことはないですよ。母の弟や妹、そして祖父母の存在が大きかったと、今は思っています。」


「教員揃いの家系でしたよね?」


「ええ。でも当時は祖父が小学校の校長をしていただけで、叔父達はまだ大学生でしたよ。」


「なるほど・・・。」


「母がホステスなので、7歳からいきなり夜は独りで留守番をする生活を余儀なくされていたんですが、夏休みと冬休みには叔父か叔母が青森に帰省する際ぼくも一緒に連れて行ってくれたり、野球のグローブを買ってくれたりと、随分と世話になったんです。今思えば、当時の大学生って凄いなと。」


「それは当時の大学生というより、総理の叔父様達が凄かったんですよ!」


「ハハハ、そうなんですかねえ、ありがとうございます。」


「愛されていたんですよ。」


「ありがたいですね。母が離婚すると決めた時、叔父の1人がまだ大学生なのにぼくの事を引き取ると言ったらしいんです。」


「それは凄いというか、温かい叔父様ですね。」


「はい。そんな身内、母は6人兄弟の長女なんですが、ぼくはその7番目の末っ子のように祖父母からも愛されていたと言われていました。」


「素敵じゃないですか。」


「夜は怖くて寂しい暮らしをしていましたし、そこそこヤンチャな学生時代を過ごしましたけど、心の奥底にはそういう身内からの愛情を感じていたから、大きく道を逸らさない人生を歩んで来れたのかなと思っていて、ずっとそれは今でも叔父や叔母、祖父母への感謝の気持ちは持っています。」


「総理のそういう体験を聞いていると、子供にとっていちばん大切なのはやはり愛だなって思いますね。」


「酒井さんもそう思いますか?」


「はい!問題になっている新宿の少女達には、そういう愛情が足りてないのでしょう。」


「我々が何とかしてあげなくてはならないですね。」


未成年の家出、飲酒、売春等が問題になっている今、それらを輩出している原因が家庭が貧しいからというものではなく、単なる親からの愛情不足が大きな原因だという事を、当の子供達はみんな知っている。


坪倉義郎は自らの経験からそう感じていたのだった。



〜つづく〜




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