コロナが第五類に移行しPCR検査が有料となったが、コロナ患者の受け入れが出来る病院数を増やそうとしているものの、出入り口が1箇所しか無く動線の確保が出来ないという病院や、人員の確保も出来ないという事ですぐに増やすことは難しそうだ。
人員不足といえば飲食店も同様に、コロナの影響でスタッフを減らしていたり休業していた店舗は新たな人員の確保に難航しており、時給をアップして募集をしている所も増えている。
「総理、ここ数年、教員の数も不足しているようです。」
「ええ、教員の場合は離職率が高くなっている影響もありそうですね。」
それを聞いた酒井官房長官が言う。
「教師が辞めるなんて、あまりそういう印象は無かったですけどねえ。」
「そうですね。根本的な問題がありそうですね。」
「無駄な残業が多いことも言われています。」
「はい、拘束時間が長いようですね。」
「部活の顧問になることも教師によっては負担に感じているようですが・・・。」
我々が持つ教師の印象では、厳しい、怖い、尊敬というのが真っ先に浮かび、悪い事をすれば厳しく叱られ、中学になれば怖い体育教師がいて悪い事は悪い!と、叱ってでも教えてくれたという印象があり、子供の親達からも尊敬される職業だったが、今ではそういうことが無いらしい。
授業参観では後ろでペチャクチャおしゃべりして授業を見ていない母親達や、自分の子供が悪い事をしてもそれを認めず教師に食ってかかったり、払えるのに理不尽な理由をつけて給食費を払わない、それらモンスターペアレントと言われる親達に気を遣い過ぎ、遂には心を病んでしまう教師が増加している。
このように今の教育現場は稀に見る異常事態となっているのだった。
「小学校と中学校が特に問題ありそうですが、総理の身内にも教師をされている方がいますよね?」
「いえ、もう定年しています。うちは母方の曽祖父と祖父が小学校で校長をしていました。祖母も小学校で家庭科を教えていたようですが、結婚して専業主婦になったそうです。あとは叔父が中学校で校長をしていましたが、既に定年していますよ。」
「それだけ身内に教員が多いのも珍しいですね。」
「ですが、教師もサービス業と同様に本当に好きでなければ続かない職種だと、叔父を見て来て思ったんです。ぼくの叔父は中学生の時にはもう体育教師になろうと思っていたそうで、大学も体育学部に入りました。しかし、そこを卒業した頃というのは上がつっかえていた時代で、すぐには採用試験に受からなかったんです。」
「そういえば、私達が学生の頃は若い教師が少なかったですね。」
「はい、叔父は産休教師をしながら毎年採用試験を受け続け、最終的に30歳でやっと受かったんです。」
「よく諦めませんでしたね。」
「甥っ子であるぼくもその叔父の熱意は凄いなって、大人になってから思いましたよ。」
「受かって良かったですねえ!」
「はい、中学校の体育教師を志望しているのに、ある時は小学校の産休教師までやってましたから、ぼくだったら腐って挫折してますよ。」
「それだけ熱いモノを持っていらっしゃったんですね。」
「はい!だから本当に情熱を燃やせるモノに出会ったなら、それは見てくれも収入も関係なくなるんですね。」
「なるほど・・・総理は常々そういう事をおっしゃってますよね。」
「叔父は青森にいるんですが、部活もサッカー部の顧問だけでなく冬はスキー部の顧問も長い間していたのを見てきました。」
「休みが無いんじゃ?」
「そうですね。だけど、叔父は本当に教師という仕事が好きだったんだなあと、ぼくから見ても感じていました。」
「それはどんなところで、そう感じたんですか?」
「ん・・・まあ悩みは当然あったでしょうが、それより何より生徒の事が大好きだったと思うんです。スキー部では生徒を撮る為にカメラを持って自分で撮影し、自宅に暗室まで作って自分で現像していたり、時には家にまで合宿か何かで生徒達を連れて来て泊めてましたから。」
「暗室までって、それは凄い!」
「生徒達からも好かれていたみたいで、サッカー部といえば当時は殆どヤンキー部みたいな感じでしたが、ヤンチャな生徒達からも愛されていた教師だったようです。」
「それは何故そう思うんですか?」
「実はぼくが通っていた高校は、叔父がいた中学校から沢山の生徒が来ていたんです。優等生からヤンキーのサッカー部までね。噂でぼくが坪倉先生の甥っ子だと知って話しかけてくるヤンキーの先輩とかいたんですが、何を話す事でもないんですが何となくね、怖いはずの先輩のぼくを見る目が優しくなっているのが分かったんですよ。それで、ああ、叔父は生徒達に好かれていたんだなって・・・。」
「へえ、なんか凄くいいお話ですね。」
「え?いや、身内の話で、すみません。ですから、本当に好きで情熱を燃やせる事を仕事に出来たなら、それは周りにも伝わって物凄く幸せな人生になると思いますよ。」
「本当、そうですね。」
「ですから我々も更に情熱を注げられるよう、もっとこの国を、国民を大切に思い好きになりましょう。」
情熱を燃やせるモノがある人や夢に向かって生きている人というのは、どんなに野暮ったい格好をしていても光っている。
そして、その明るい所に人は集まるものである。
〜つづく〜
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