「失礼ですが、坪倉さんおいくつですか?」
「62歳です。原田さんはおいくつなんですか?」
「俺は45です。」
「えっ?そうなんですか!若く見えますね。てっきり30代かと・・・。」
「坪倉さんは昼間は何か仕事されてるんですか?」
「いえ、私はもう定年してますので・・・。」
いきなり際どい質問をされて少し動揺してしまった坪倉。
「原田さんはここの他に何か仕事されてるんですか?」
「少し前まではレストランで調理の仕事してましたけど、今はここだけです。あ、トラック来ましたね。行きましょう。」
サヤマ運輸の大型トラックから、コンテナボックスが16本ほど下ろされた。
「俺と坪倉さんで芝浦と貼ってあるボックスの荷物を番地別に分かれたボックスに仕分けしていきます。」
「はい。」
「あと、時間が指定されていたり明日以後の日付に指定された荷物があったら、その都度教えますからまずはゆっくり分けてみてください。」
「はい!」
教えられた通りに何とか仕分けが終わると、原田さんが缶コーヒーを持って来てくれた。
「これどうぞ。次のトラックが来るまで少し休んでてください。」
「あ、これはどうもすみません、ありがとうございます。」
缶コーヒーを飲みながら辺りをもの珍し気に見渡す坪倉。
見たところ、意外にも若い人がいない。
「ここは若い人とか学生はいないんですか?」
と、思わず原田さんに尋ねる。
「そうですねえ、夏休みとかなら大学生とか来ますけど、普段は少ないですね。」
「そうなんですか。年齢層も幅広いですね。」
「ええ、フリーターとダブルワークの人ですね。」
「ダブルワーク?」
「ええ、今はみんな週に数回はバイトしてる人が多いんですよ。」
「どうしてですか?」
「昼間の仕事だけじゃあやっていけないですからね。社長やってる人もいるし、この前は証券マンまで来てましたよ。」
「えー?!正社員じゃないんですか?」
「みんな正社員でしょ。給料が安いから正社員でもバイトしてる人は多いですよ。それだけ正社員の価値が無くなったからフリーターも多い感じですかね。」
「うっ・・・。」
そんな現状を聞いて言葉が出ない坪倉。
「坪倉さんも社長さんだったとか?」
「い、いやあ、私は普通の会社員でしたよ。」
「そうなんですか?覚えが早いし雰囲気的に貫禄ありますよね?」
「いえいえ、恐縮です。」
「ここは結構フリーターでもまともな人ばかりですが、他の倉庫なら挨拶もろくに出来ない様な人間が多いんですよ。外国人も多いし。」
「そうなんですか?」
「ええ、東大卒なのに挨拶も出来ない、協調性もなかったり、なんか無駄な学歴の人が多い世の中だなって思う時ありますよ。」
「東大で・・・。」
初日から衝撃的な事実を聞かされ、3時から4時までの休憩中ずっと原田さんから聞いた事をメモしている坪倉だった。
トラックが4回来た頃には朝5時から来る人達が何人かバタバタと出勤して来た。
「あ、小林さん!こちら今日からの坪倉さん。」
「あ、坪倉です。宜しくお願いします。」
「どうも小林です。」
「小林さんは10年選手なんですよ!小林さんも芝浦担当なんで一緒にやります。」
原田さんがニタニタしながら小林さんを紹介した。
「坪倉さんいくつですか?」
「62なんですよ。」
「そうですか、私は52歳です。」
「10年もやられてるんですかあ。」
「そうなんですよ。子供が2人小さかったもんで、あっという間に経っちゃいました。」
もっと詳しい話を聞きたかったが荷物が次から次に到着するので、中々プライベート的な話をする暇がない。
あっという間に8時になり、何とか初日を無事に終えた坪倉だった。
倉庫を後にし、足早に昨夜車を降りた所に向かっていると小林さんが自転車で追いかけて来た。
「あ、お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。坪倉さんはどこまで帰るんですか?」
「えっ?あ、えーっと、そのせ、世田谷の方です。」
「平和島から京急ですか?」
「あ、はい。小林さんは?」
「私は大森なんですけど、これから仕事なんですよ。」
「どちらまで?」
「会社が田町なんですよ。」
「自転車で?」
「はい、このまま行くんです。それじゃ、お疲れ様でしたー。」
「あ、お疲れ様でした。気をつけて・・・。」
住まいを聞かれるとは想定していなかっただけに、内心かなり慌ててしまった坪倉だったが、思わず誤魔化すことも出来ずざっくりだが世田谷と言ってしまった。
次は世田谷のどこ?とか、もし最寄駅を聞かれたら正直に奥沢と答えるしかないと思う坪倉だった。
「総理!大丈夫ですか?」
前から酒井官房長官が走り寄って来た。
「ん?どうしました?」
「どうしたもこうしたも今どなたかと話されてたじゃないですか。バレたのかと・・・。」
「はい、バレました。」
「えーっ!?どうするんですか総理!!」
「ウソですよ。」
〜つづく〜
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