学校を卒業してすぐに外資系シティーホテルに就職し、最初に配属されたBARでのこと。
まだ入社して間もない頃にホールを歩いていると、70歳前後と思われる老夫婦のテーブルから声がかかった。
それは常連の某組織の会長夫妻だった。
俺がテーブルに行くと、ご主人が「タバコ買って来てくれ」と。
そのホテルに自販機は設置していない為、タバコはフロントまで買いに行くのだった。
フロントから戻り、BARのマッチを添えて「お待たせ致しました」と、テーブルの上に置いた。
すると会長、いや、ご主人がドスのきいた声でひと言。
「開けろ」と。
俺は慌ててタバコを手に取り、セロハンを剥がしてトントン!と、1本を取りやすいように出して差し出す。
ご主人はそれを取って口に咥えると、俺がすかさず火をつけた。
一度タバコを吸い煙を吐いて、ご主人がまたひと言。
「なあ?これがサービスだろ」と。
俺は緊張しながら「はい、失礼しました」と言った。
「新人か?」
「はい!」
「頑張れ」と、渋い低音で言われた。
会釈をして去ろうとした時、「おい」と。
振り返ると、「取っとけ」と言いながら1万円を差し出されたのでビックリして、隣に座っている奥さんに目をやると、品のある穏やかな優しい笑顔で「貰っておきなさい」と。
BARは常連さんが多く、マネージャークラスは毎日チップを頂いているのだが、まだ入社して間もない俺はビックリしてすぐにマネージャーに報告したのを覚えている。
また、そのBARではお客様から頂いたチップはマネージャーが保管し、従業員の歓送迎会や忘年会などの時に使わせて頂いてました。
ちなみに、現在ある出版社の社長となっているK氏もそのBARの常連さんだったので、俺が現在小説を書いているし、縁があればそのうち会えるのかな。
📙縁があるかも📙