父の日も母の日も終わったが、複雑な家庭の俺には昔から縁のない日だ。
で、ふと思ったのだけど、普通は両親の涙を初めて見たのは何才くらいの時なのか。
嬉し涙だったり悲しい涙だったり・・・。
俺はハッキリ覚えている。
2人共悲しみの涙だった。
最初は父。
幼稚園までは家政婦さんがいたけど、その時は家政婦さんがいない状況だったのでおそらく小学校に入学してすぐだったのだろう。
ある日、たぶん学校から帰っても父がいなかった。
普通ならまだ帰っていない時間だけど、その時の俺が母に「お父さんは?」と聞いた記憶があることから、前日からとか数日帰っていなかったのだろう。
俺があまりにもしつこく「お父さんは?」と聞くので、母は居場所を教えた。
「お店にいるから行ってきなさい」と。
お店とは、地元で家から5分ほどの場所で両親が営んでいたクラブのこと。
母がママで、昼間の仕事を終えた父も夜はマスターとして店に出ていた。
今もその店が入っていたビルは残っている。
自由が丘駅から徒歩1分の雑居ビルだ。
母に言われ店に行くと、鍵が開いていて店内で父が寝ていた。
俺は安心したのか、父に抱きつきながら「お父さん帰って来て!」と、泣きながら何度もそう訴えた。
すると父は俺を強く抱きしめた。
この時、父の顔を見上げた俺は驚いた。
父が泣いていたからだ。
これが初めて見た父の涙だった。
それから数ヶ月後に両親は離婚した。
母子家庭となり、いきなり俺は独りで夜は留守番をするように言われる。
母が銀座のホステスになったからだ。
離婚し駅前のクラブは閉めたらしい。
「明日からお母さんは夜いないから、今日は練習してみなさい」と言って、母は夜になると出かけてしまった。
いきなり両親が離婚したのを知らされた日に、知らないマンションに引っ越した日でもあったので、まだ7才の俺は完全にパニックになった。
もう家政婦さんもいない。
初めて独りで夜を過ごすのだ。
それは寂しいというよりとても怖かった。
昨日まで住んでいた家から徒歩15分程のマンションだったが、まだ子供の俺には遠くに来た印象もあり、初めて味わう孤独感と恐怖に怯えた。
夜9時を過ぎた頃、電話が鳴った。
その音にさえビクッとした。
母からだった。
「お母さん早く帰って来て!もう怖いよ!」と、泣きじゃくりながら訴えた。
深夜0時頃に母が帰って来ると、また泣きじゃくりながら訴えた。
「もう嫌だ!夜はうちにいてよ!」と。
すると、母は言った。
「しょうがないじゃない、お母さんは働きに行かないとしょうちゃんと暮らしていけないのよ」
そう言いながら母も泣いていた。
これが初めて見た母の涙だった。
7才にして、両親の悲しい涙を見てしまった記憶が、今でも脳裏に焼き付いている。
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