※ミハエル・シューマッハーの写真です
今晩は。
桜井先生のライヴでの興奮が醒め遣らなくて寝付けないので、
深夜で恐縮ですがもう一回、
更新させて頂きます。
カール・ヴェンドリンガーと言うレーシング・ドライバーをご存知でしょうか?
彼は「F1史上最強のドライバー」ことミハエル・シューマッハーや、
同じくF1で3度の優勝を遂げたハインツ=ハラルド・フレンツェンと共に、
1990年代初頭にメルセデス・ベンツに英才教育を受けて将来を嘱望されていたドライバーの一人でした。
F1に於けるフル参戦初年度であった1992年には上位のドライバーのリタイアが続出してサバイバル・レースとなったカナダGPで4位に入り、
それは当時彼が在籍していたマーチのオンボロのマシンでは奇跡的な快挙とも謳われました。
その頃水面下でメルセデスは、
ザウバー・チームと共に、
ミハエル・シューマッハーとカール・ヴェンドリンガーの2人のドライバーと言うラインナップでF1参戦を再開する予定を組んでいました。
しかし、
空力面での強みから来るベネトンのマシンのポテンシャルの高さに心底惚れ込んでいたミハエル・シューマッハーはザウバーに移籍する事を拒みました。
結果としてメルセデスは1993年には新参のザウバーにエンジン供給のみ、
ドライバーはカール・ヴェンドリンガーを第一ドライバーと言う布陣で臨み、
翌年はヴェンドリンガーとフレンツェンと言う、
ミハエル・シューマッハーを抜きにした元々の育成プログラムに基付いた布陣でF1参戦再開の序盤を戦っていました。
ヴェンドリンガーもその期待に応えて、
手堅く入賞を重ねて有望な若手ドライバーとしてのキャリアを重ねていました。
しかし、
1994年の第3戦サンマリノGPでのアイルトン・セナの事故死と言う悲劇の次戦のモナコGPで、
悪夢が再び起きました。
カール・ヴェンドリンガーがクラッシュで頭部を強打して、
意識不明の重体に見舞われたのです。
結果としては数ヵ月後にヴェンドリンガーは意識を回復しましたが、
レーシング・ドライバーとしての「才能」は完全に損なわれていました。
この間に、
メルセデスはエンジンの供給先をザウバーからマクラーレンに移す事を発表していました。
メルセデスの判断の背景にヴェンドリンガーの事故が在った事は自明の事実でしょう。
しかし、
逆に僕は夢想をするのです。
もしもヴェンドリンガーの事故が無かったとしたら?
メルセデスはエンジンの供給先をザウバーに継続していたにせよ、
マクラーレンに移していたにせよ、
ヴェンドリンガーの存在を重視した事に変わりは無かった筈です。
エンジンの供給先がザウバーのままだった場合は、
ザウバーはもっと強力なチームへと成長を遂げて、
ヴェンドリンガーと共にチャンピオン争いに絡む活躍を見せていたでしょう。
逆にエンジンの供給先をマクラーレンに移していたにしても、
メルセデスはマクラーレンに、
ミカ・ハッキネンのチーム・メイトとして、
クルサードではなくヴェンドリンガーを起用する事を強いていた筈です。
私見ですがヴェンドリンガーはクルサードよりも遥かに優れたドライバーでした。
つまり、
ミカ・ハッキネンと切磋琢磨をした上で、
1998年以降にフェラーリのミハエル・シューマッハーとヴェンドリンガーは三つ巴のチャンピオン争いを展開していた筈なのです。
若しくは、
1996年の時点でのマクラーレンのドライバーのラインナップが、
ミハエル・シューマッハーとカール・ヴェンドリンガー、
と言う布陣になっていた可能性も有るのです。
要するに、
ポスト・アイルトン・セナ世代の覇権争いはかなり早い段階でミハエル・シューマッハーがトップと言う構図に確定していましたが、
カール・ヴェンドリンガーがさえ事故に遭っていなければ、
その後のF1の歴史は大きく変わっていた筈なのです。
それだけ、
メルセデスはヴェンドリンガーに期待を懸けていた筈ですから。
カール・ヴェンドリンガーと言う稀有な才能の持ち主の喪失は、
それだけF1のその後の歴史の展開に多大な影響を及ぼしてもいたのです。
今回は以上となります。
最後までお読みになって下さいまして、
本当に有り難うございます。
今後とも宜しくお願い致します。
それではまた、
次回の日記にて!!
※貴重な文献を発見したので引用させて頂きます。
「僕の素敵なライバル」VOL.7■□「F1グランプリ特集」94年1月号(VOL.55)
ミハエル・シューマッハ⇒カール・ベンドリンガー
ミハエル・シューマッハは、世間では、アイルトン・セナ以来の希望の星と見なされている。彼がF1でかくも大成できたのは、いわゆる「メルセデス・アカデミー」で受けた教育に負うところが大きい。だが、栄えある卒業生で、F1にステップアップしてきたドライバーはもう1人いる。
それがカール・ベンドリンガーだ。 彼はまだ成績こそ残していないが、シューマッハ同様、非常に高い評価を受けている。人によっては、技術的にはシューマッハよりいいモノを持っているから、長期的にはシューマッハを上回るドライバーになるだろうと予言する者さえいる。
予言が当たるかどうかはともかく、若く才能のあるドライバーが、メルセデス・アカデミーから2人も送り込まれてきた事は、F1界にとって喜ばしい事であるのは言うまでも無い。この世界の人間は、2人におおいに注目しているし、事あるごとに2人を比較している。もちろんそれは当人達も同じだ。シューマッハは、かつての同級生の動向を興味深く、しかも賞賛の念をもって観察していた。
シューマッハと対照的にベンドリンガーは、華々しいデビューや成績を残す機会には恵まれてこなかった。デビューしたのは1991年の鈴鹿でレイトンハウスからだったし、翌年はマーチで活躍したものの、チームのごたごたのあおりで思ったほどの成績は挙げられなかったからである。
93年は心機一転、新生のザウバーチームから、J-J・レートとコンビを組む形で参戦したものの、ザウバーは当初期待されたほどの活躍は見せていない。ベンドリンガーにとっては、またしてもフラストレーションのたまるシーズンとなった。
ただそれでも、93年はモンツァで4位、エストリルで5位と連続入賞した事で、ドライバーズランキングでは最終的にJ-J・レートを上回る12位でシーズンを終えている。まだまだ不本意とは言え、一応、正当な評価へつながる足掛かりができたという点では、ベンドリンガーにとってよかったといえるかもしれない。少なくとも、もと同級生のシューマッハはそう見ていた。
「カールはよくやっていると思うよ。でも僕にとっては何の不思議でもない。J-Jに比べたって、カールはかなりいい仕事をしているじゃないか。ここ何シーズンかは序盤でつまずいたりしてちょっと運がなかったけど、ツキも変わってきたみたいだし、成績もだんだんとよくなってきたから嬉しいよ」
自身、初勝利を挙げるまでは、運が向いてくるのを辛抱強く待った経験を持つシューマッハは、ベンドリンガーの飛躍の可能性がチームが発展できるかどうかに大きくかかっている事を、換言すれば、ザウバーにとってベンドリンガーは、チームがF1で確固たる足場を築くことができるかどうかの鍵を握っている人物だと指摘した。
「他のチームについていくために、開発を続けていかなければならないというのが、彼がいまいるザウバーの置かれた状況だと思う。シーズン開幕を迎えるためには、どのチームでもある程度の土台と言うモノが必要になるけど、その点ではザウバーは冬の間にみっちりテストをこなしていたから、それなりの基礎もあったし、先行きも明るかった。
でもF1の世界では、あらゆる物事が絶えず進化していくから、ある程度の基礎があっても満足しないで、チーム力のアップをはかっていかなれければならないんだ。それがザウバーの場合は、経験が少ないのと、多分人材がそろってなかったこともあると思うけど、シーズンを通したレベルアップと言うモノが出来なかった。
そういう状況だと、ドライバーができることにも必然的に限界が出てくる。カールの場合もそれだと思うな。実際、カールなんかはもっといい成績を残してしかるべきだよ」
これほど謙虚なシューマッハもめずらしいが、ではいったいベンドリンガーの何が、シューマッハをしてかくも礼賛させるのだろうか?
「カールっていうのは、他の多くのドライバーとは違うんだ。いつも冷静で、君も彼が取り乱したりするところは見た事がないだろう?あわてて失敗するというようなところが彼にはまったくない」
それはやはりメルセデスの教育に負うところが大きいのだろうか?
「いや、そうじゃない。あれは彼の性格に関係している。もともとの性格が凄く冷静なんだ」
まだ才能を開花させるチャンスにこそ恵まれていないものの、シューマッハはかつてのチームメイトが、いずれは実力に似合った結果を出す日が必ず来る事を確信しているようだった。
たとえばその根拠として、シューマッハは92年のカナダGPの例を挙げた。このレースでシューマッハは2位に入ったが、同様にベンドリンガーも4位に入賞し、初野ドライバーズポイントを獲得している。
「あのレースは僕にとって満足出来るレースになったけど、カールの才能というものを再認識したレースにもなったんだ。彼は、僕が前から思っていたとおりの力を持っていた。彼の走りに驚いたのは、他の人も同じだったはずさ。 まあ、あのレースに限らなくても、F1に来てからの走りをずっと見ていれば、彼がすごい才能の持ち主だって事は、誰にも判ると思うけどね。
たとえばこれまでカールはきちんとしたドライバーたちとコンビを組んできたけど、ことごとく彼らを打ち破ってきた。少なくとも負けはしなかっただろう?
世間の人はともすれば彼の静かなたたずまいにばかり目を惹かれてしまうけれど、闘争心もすごく強い。能力的にも性格的にも、F1で必ず成功するはずさ」
ベンドリンガーが豊かな才能と強い闘争心の持ち主であることは、多くの人が認めている。只反面、その身長の高さゆえに、実力を発揮できないままキャリアを終えるのではないかと懸念する人がいることもたしかである。昔に比べて、大柄なドライバーが増えてきたとは言え、ベンドリンガーの身長がたしかにずば抜けている。シューマッハはこの問題についてはどう考えているのだろうか?
「その辺の事情は、わからないな。未来のドライバーの平均身長がどのくらいになるかなんてことは予想がつかないから、何とも言えないよ。でも、長身のドライバーに合わせてつくられたマシンも増えてくるんじゃないかな。どっちにしても、そんなつまんない問題で、ドライバーとしてのカールの成長が妨げられないことを望むだけだよ」
たとえばベンドリンガーの場合などは、シューマッハがジョーダンからベネトンに引き抜かれたように、飛躍するチャンスというものが必要なのではないだろうか。
「カールが豊かな才能の持ち主だってことは間違いない。でも君の言う通り、この世界では関係者に自分の能力をアピールして、いいチームに行き、いいマシンに乗るということも必要なんだ。だから僕も、カールがトップチームのドライバーになれればいいなって思うよ。
もちろんこんなことを言ったからって、彼が乗ってるマシンが悪いとか、ザウバーはこれ以上伸びないなんて言っているわけじゃなくて、只純粋に、いいマシンに乗せてみたいと言ってるだけだからね。
カールとはメルセデスで同じ釜の飯を食った仲だし、いまでもよく話をしたりする。だから、お互い順調にキャリアアップしていけたら最高だろうな。
とにかく、僕は彼がこの世界で大成するってことをまったく疑ってないし、彼が上位で走る機会がもっと増えたら、遅かれ早かれ、多くの人が僕と同じ感想を持つようになることは間違いないよ」
※引用は以上です。