ハミングバードvol.3 | R.Gallagherの世界一面白いブログ!!

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渋谷駅に着くと当然、多くの人で混んでいたし、彼女から離れてしまわない様に気を遣った。いっその事、彼女の手を繋ぎたい衝動に駆られたが、それで嫌われるのはまだ厭だったので自重した。
「凄い人だね?」
「私は馴れてますから」と彼女は微笑んだ。「田中さんは?」
「俺はほとんといつも定時に帰れるから、いつもはこんなに混んではないな」
「定時って何時なんですか?」
「夕方の5時半」
井の頭線の改札の中に入ると、急行と各駅停車のどちらのホームも凄い行列だった。
「座りたい?」
「田中さんは?」
「俺はどっちでもいいけど」と応えた後に、少しだけ考えてから「混んでても、さっさと急行に乗っちゃおうか?」
「はい」と彼女は笑って頷いた。
出発した電車の中は壮絶に混んでいた。僕は彼女を見失わない事だけに注意を払った。
明大前の駅で降りると、僅かに安堵の心持ちになった。京王線のホームに上がると、ついついいつもの不満を零してしまった。
「明大前のお客さんってさあ、世界一マナーが悪くない?」
「何でですか?」
不意を突かれたのか、彼女は円らな両瞳を更に大きく丸めた。
「この駅の人ってさあ、平気で勝手に三列目や四列目を作り出すじゃん?ちゃんと二列に並べっつうの」
「気付かなかったです」と珍しく、彼女が僕に賛意を示さなかった。「私も注意します」
「いやいや、別に大丈夫だよ。ごめんね、器が小ちゃくて」
「器が小さくなんかないです。大事な事です」と、少し神妙な面持ちで彼女が応えた。
最初は心地が良かったが、彼女が余りにも僕を見上げてくれているので、それで逆に不安になった。肯定されたり理解され過ぎるのも考え物だ。

下高井戸駅の改札からサイゼリヤには直ぐに向かった。時間も時間だし、二人とも強い空腹感に襲われていたのだ。

店の中に入ると、幸いな事に喫煙席の一番奥が空いていたので其処に座った。
二人で別々にメニューを眺めて店員を呼ぶと、僕はリブステーキとハヤシ&ターメリックライスを頼み、彼女はカルボナーラとサラミとパンチェッタのピザを頼んだ。勿論二人とも、ドリングバーも頼んだ。
僕は煙草に火を点けると、再度、今後の会話の展開を計算した。答えは直ぐに出た。もっと彼女自身の情報が必要だ。
「何かさあ、さっきは俺の話ばかりになっちゃったから、今度は園田さんの話を聞かせて?」
「了解りました」と応えた彼女の表情は強張っていた。
「サイゼリヤにはよく来るの?」
「友達が下高井戸に来てくれた時にはよく使ってます」
「今日、ここを提案したのは、俺がサイゼリヤが一番好きなのを知ってるから?」
「バレちゃいました?すみません」と彼女が微笑った。
「いやいや、嬉しいよ?気を遣って貰えて」
「それなら良かったです」と、安心そうに彼女が応えた。表情のヴァリエーションが豊かな娘だ。
「何のバイトをしてるの?」
「中学生の塾の講師です」
「何の教科?」
「英語です」
「中学生の英語だと、そこまでは大変じゃなくない?」
「そうですね、都立高校受験に特化した塾の講師なので」
「でも、モテるんじゃない?」
「確かにマセてる生徒はいます」と照れながら、彼女は微笑った。
「告白られたりする?」
「LINEを訊かれたり、Twitterのフォローバックをお願いされます」
「そうか、流石に園田さんも、LINEはしてるよね?」
「はい、学校の繋がりだけですけど……」と彼女は応えた。「田中さんはしてませんよね?」
「ガラケーだからね」
「スマホにしないんですか?」
「文字の入力とかに馴れるのが面倒っぽいし、セキュリティーの事とかを考えるとね」
「オールド・スクールですね?」と、調戯かう様に彼女が微笑った。
「SNSに長い文章を書き込む必要が無くなるぐらいに有名になれたら考えるよ」
「田中さんらしい」と、再度彼女が微笑んだ。
「園田さんが初めて好きになったミュージシャンって誰なの?」
「HYです……」
「そうかあ、そう言う世代なんだ」
「変ですか?」と不安そうに彼女が訊ねた。
「いや、全然」と僕は応えた。「“AM11:00”は、俺も好きだよ?日本のミクスチャー・ロックの雛型って感じじゃん?絢香の“三日月”と、同じCD-Rに一緒に焼いてある」
「何で“三日月”と一緒なんですか?」と、きょとんとした表情で彼女が訊ねた。
「昔、色々あってね」と、僕は言葉を濁した。それに応えると、話題が完全に逸れ過ぎてしまう。迂闊だった。
「田中さんはずっとU.K.一筋ですか?」
「いや、そうでもないかな。確かに偶々、イギリスのバンドが多かったけど、フィオナ・アップルやキャット・パワーみたいなアメリカのシンガーソングライターもずっと好きだし。それと……」
「それと?」
「『U.K.』って言う呼び方は、余り好きじゃないんだ」
「何でですか?」と不思議そうに、彼女が訊ねた。
「何かさあ、軽薄な感じがしない?」と、既にもう充分に自分自身が軽薄な事に気付かぬままに、僕は応えた。
「確かに」と彼女が微笑った。
食事が運ばれて来ると、二人とも黙々とそれらを食べた。
デザートを食べ終えると、再度会話の時間に戻った。
「普段は料理は自分でするの?」
「いえ、全然です」と気まずそうに彼女が応えた。「良くないですよね?」
「いや、別にまだ、全然いいんじゃない?流石に将来子供が出来たら、料理は親が作ってあげないといけないとは思うけど」
「確かに」と応えた彼女は、本当に納得した様子だった。

他愛も無い会話の連続だったが、昔の僕はこの種の恋愛と言う局面に必要とされる、所謂「社会的手続き」がもっと苦手だった。今直ぐ君だけが欲しい。そんな感じだった。それに伴う失敗を幾つか重ねて、僕は懲りた。だが、本当に惚れ込んだ女性とは、やっぱり巧くは距離を詰められないのも確かだ。僕は神様なんて野蛮な原始人が創り出した空想の産物に過ぎないとずっと昔から考えてもいるが、それでも本当に神様がいるのだとしたら、僕は恋愛が苦手な代わりに文章や曲を書くスキルを与えられたのだろう。いつもそんな風に考えていた。まだ、目に見える実績は残せてはいないが。そんな事を考えながら、12時ぐらいまで、無難な会話を彼女と続けた。
(続く)


【恒例附記】

僕がノエル・ギャラガーにスカウトをされて、
プロのシンガーソングライターになれた場合の作品の構想は以下の通りです。


ソロ名義一作目:『モノローグス』
サンクチュアリーの一作目:『The Greatest Hits』

DISC1

1.First Words
2.Morning Light
3.黒いカーディガン
4.振り返ったら悲しくなるから
5.空の下で
6.美しい花
7.輝くために
8.影も視えなくて
9.冷たい女
10.償い
11.命綱
12.空を見上げただけだった
13.どんなことにも
14.奪還
15.生きて行くこと
16.不確かな予感
17.命綱(ストリングス・ヴァージョン)

DISC2

1.愛して下さい
2.ペルソナ
3.Crazy Love Melody
4.死に損ない
5.レクイエム
6.真実?
7.No More Dream
8.奏でるべきもの
9.ランドスケープ
10.ソング・オブ・ヴェスパ
11.光が射して
12.日溜まり
13.未来
14.永遠
15.ずっとそばに
16.オプティミスティック


サンクチュアリーの二作目:『シュトゥルムドゥラング』

1.ディスクール.1
2.ディスクール.2
3.フライング・アウェイ
4.スタンディング・アローン
5.シュトゥルムドゥラング
6.ジークフリート
7.汚れた指
8.リフレイン
9.恋は止められない
10.君のせいじゃない
11.ボタン
12.イマジネーション
13.虚勢
14.激情


サンクチュアリーの三作目:『トゥモロー・モーニング、(アイル・ハヴ・ア・フィーリング)ロスト・フォーエヴァー』

1.ありがとう
2.流れの中に
3.君を想って
4.ピュア
5.オーヴァーグラウンド
6.ブラックホール
7.イヴェント・ホライズン
8.ユニヴァース
9.青の座椅子
10.朝顔
11.昼下がりの背徳
12.流れた星が凍った夜に


サンクチュアリーの四枚目:『完璧な幸せ』

以下、収録予定曲

ロックンロール・スター
情況
話していたい
何処にも行かない
少しずつ
残像
行かないで
贖罪
自由
世界の何処かに
晩餐
完璧な幸せ

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